made in JAPANの伝統工芸品を世界へ  職人と消費者をつなぐ映像のリアリティ

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日本各地の職人が作る伝統工芸品に特化して販売するECサイト「CRAFT STORE」。全て自社で制作した映像を活用し、普段は接点のない職人と消費者をつなげ、ファンづくりの手助けをしている。職人のものづくりに込めた想いや手作業を「音」でリアルに伝えることができるのが映像の強みと話す井手社長。時代にあった映像活用や今後の展開を井手社長に聞きました。

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井手康博(いで・やすひろ)

ニューワールド株式会社

 

1990年生まれ。福岡県出身。大学では中国語を専攻。大学を2年で中退し、単身で中国上海に留学。「関わる人の笑顔のために」というミッションを掲げ中国で起業を決意。日本に帰国後、2013年11月にニューワールドを創業。「映像と買い物をつなげる」をコンセプトにファッションメディア「アイマニ」を立ち上げる。その後2016年に事業転換をし、2017年2月に伝統工芸品を映像とともに紹介するECサイト「CRAFT STORE」を公開。「日本ブランドを世界No.1へ」をビジョンに掲げ国内では伝統工芸従事者と連携したマーケティング事業を拡大し、国外では上海を中心に中国において販路を拡大している。2021年より一般社団法人 日本DESIGN BANK 理事に就任(現任)。

「音」が生み出すリアリティが映像の強み

編集部 (以下、−−) 「CRAFT STORE」は、日本全国の伝統工芸品に特化したオンラインストアですが、なぜ、伝統工芸品に特化したのでしょうか。

 

井手社長 (以下、敬称略)  本来、伝統工芸品は値段が高いことが理由で、オンライン上では売りにくい商材とされています。ここに目をつけたのがはじまりです。商品に「映像」というコンテンツを加えて訴求することで、「コト消費」を喚起できないかと2017年に始めました。

 

−− 美しい商品のプロモーション映像だけでなく、職人さんのインタビュー動画や、対談コンテンツなど、質の高い映像をYouTubeチャンネル『旅する雑貨店CRAFT STORE』やショッピングサイト「CRAFT STORE」に掲載されていますね。

 

井手 職人さんたちが語るものづくりへのこだわりや、美しい作業風景のリアルを映像にして消費者に届けることで、消費行動が生まれています。オンラインによる流通支援をすることで、ものづくり産業に貢献したいと思っています。

旅する雑貨店 CRAFT STORE  山谷産業_ダッチオーブン(L)

−−  クオリティの高い映像/クオリティを追求した映像を制作するには、労力もコストもかかると思いますが、どのような体制なのでしょうか。

 

井手 CRAFT STOREの映像に関しては、企画・撮影編集も含め、静止画やテキストのコンテンツはほぼ内製し、基本的には費用も自前です。弊社では、CRAFT STOREの運営以外に、国内外のクラウドファンディング支援事業も手がけていて、そちらではプロジェクトを達成したい企業からご依頼をいただき、マーケティングやクリエイティブ全般(ウェブサイト、動画、静止画、テキストなど)をサポートしています。

現状、CRAFT STOREはテキストをベースに展開しています。コストや労力の関係上、全ての商品に映像を作ることはしていません。より成果を高めるために、映像を活用するという位置づけです。

 

−− どのような基準で映像を活用する商品を決めているのでしょうか。

 

井手 PVや売行きを分析した上で、よく見られているページや売れている商品に、プラスアルファの施策として映像を活用しています。

 

−− 実際に、映像があることで、商品への反応に変化はあるのでしょうか。

 

井手 正確な数字を取ることは難しいのですが、映像コンテンツがあったほうが購入率が上がる検証はこれまで実施していますね

 

−− 「写真+テキスト」と映像の違いはなんでしょうか。

 

井手 映像は、全く嘘がないこと。「嘘」というと語弊があるかもしれませんが、テキストや画像は加工できますよね。もちろん映像も編集できますが、映像で変にごまかそうとすると、消費者はその違和感に気づきます。この「嘘のつけない」時代に信頼や信用を得ることができる最適な手段が映像だと思います。

 

−− 映像が持つ一番の強みはなんだと思いますか?

 

井手 「音」が生み出すリアリティだと思います。職人さんの「ものづくりへのこだわり」を音声にして届けること、実際の作業の「音」を届けることで、とても鮮度の高い、リアルなストーリーが消費者に届きます。方言なんかもそうです。実際、聞き取れない方言や意味がわからない言葉があっても、なぜか伝わったり、親近感を得たりすることってありますよね。それが、「音」の凄さだと思うんです。

売るため?ファンづくり?目的別 映像の作り方

−− 販売施策としての映像の活用術を教えてください。

 

井手 何かを売るためには、「機能面」を映像にして届けることが大切だと思います。テレビショッピングをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。映像を見て「ワオ!」という驚きが多ければ多いほど、購買につながります。

 

−− 「機能面」を映像化するためのコツはありますか?

 

井手 ただ機能を映像化するのではなく、どんな表現にするかがとても重要です。以前、漆の曲げわっぱのお弁当箱を売るために、機能面が伝わる映像を制作しようという話になりました。機能面を押し出そうとしたのには理由があります。漆を塗っていない一般的な曲げわっぱは、汚れが染み込みやすく、その汚れを抜く作業って結構大変なんです。お手入れも大変な上に高価だと、オンラインではなかなか売れません。ですが、漆が塗ってあると汚れがつかないんですね。この「汚れがつきにくい」という訴求ポイントを映像で表現するために、「ただ洗う」映像を撮影したんです。

「汚れがつきにく」という機能面を訴求した「うるしの弁当箱をただ洗う」という映像

井手 数十秒の短い映像です。本当に思いつきでその場でカメラを上から固定して撮影しただけの映像でしたが、通常の2倍近い購入率でした。

 

−− 機能面を押し出す以外に、映像を作る時のコツがあれば教えてください。

 

井手 ファンづくりのための映像は、機能面でなく「ストーリー」が重要だと考えています。

 

−− ファンづくりには「ストーリー」ですか。

 

井手 ファンというのは、商品やブランドの前に、人につくものだと思っています。だから、その人と消費者の接点となる「ストーリー」を映像で見せることにこだわっています。ブランド消費にファンがつくための最初のフェーズが「人」だとしたら、その人にカメラの前で語ってもらう必要があります。これまで、職人さんの作る商品は、問屋や商社が入って流通していたので、職人さんはお客さんの顔を全く知りませんし、消費者も職人さんの顔を知っている場合は多くないと思います。だからこそ、「職人さんのものづくりへのこだわりや情熱」のコンテンツは消費者に新鮮で、「共感」といった「コト消費」や「応援」といった「イミ消費」となり、購買につながっているのだと思います。

日本のものづくりを世界に後押しする架け橋に

−− 御社では、クラウドファンディング支援事業も手がけていますね。これまでに国内では166プロジェクトを支援し、10.5億円を調達しています。

 

井手 クラウドファンディング支援事業は日本ブランドを生み出し、グローバルに流通させていくために必要な事業です。伝統工芸品に特化した理由はここにもあります。海外で展開するにあたり、海外のものづくり企業やつくり手が簡単に真似できない商品であることが重要だと考えています。職人さんの技術は簡単には真似ができませんよね。そうすることで、競争相手を減らすことが狙いでもありました。

 

−− 海外に流通させる上での映像活用についても教えてください。

 

井手 海外へ展開する時こそ映像が効きます。ただし、国内マーケットへの映像活用とは少し異なります。海外での映像活用のキーワードは「非言語」です。

 

−− 「非言語」だと、先ほど言っていた映像の強みである「音」の優位性は下がってしまいませんか?

 

井手 確かに、方言などのリアリティは海外には伝わりません。ただ「音声」ではなく、「音」だったらどうでしょうか。轆轤(ろくろ)を回す音。火花が散る音。こういった手作業や道具が生み出す音は、非言語でありながら、消費行動を促すコンテンツになり得ます。海外で成功するためには、継続的かつ効果的に発信する映像ブランディング&マーケティングが鍵です。

 

−− これまで、海外に展開したプロジェクトで印象に残っているプロジェクトを教えてください。

 

井手 新潟の三条市のアーネスト株式会社のプロジェクトは印象に残っています。自社で開発した洗濯機につけるマイクロファインバブルアダプターのプロジェクトで、1万4000人以上の方から、1.1億円以上調達することができました。

 

−− それは凄い!

 

井手 はい。地域に対するインパクトもとても大きかったです。さらに台湾でのテストマーケティングでは日本円にして5,800万円を超える調達をし、そこからさらにビジネスが進展しました。こういったグローバルなビジネス展開の後押しを、私たちはしたいんです。今後は、米国のクラウドファンディングプラットフォームなどにも展開を強化してテストマーケティングをやる予定です。様々な国で事例を作り、データを蓄積することが私たちの武器になります。私たちの取り組みによって、ものづくり産業を盛り上げることができれば嬉しいですね。日本のものづくりと消費者とをつなぐ架け橋になれればと思っています。

 

−− 最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

 

井手 コロナによって、今回はオフラインのビジネスが大きなダメージを受けました。しかし、私たちオンラインのビジネスにおいても、“ネット上のウィルス”により急にビジネスが立ち行かなくなるおそれがあります。もしかすると明日そのような事態が起きるかもしれません。今回のコロナ禍で、そういった危機感を持ちました。では、どのように対処すればよいのでしょうか。どんな時にも揺るがないビジネスとは何でしょうか。それは、自分たちのビジネス(仕事)によって、人に喜んでもらい、人に支持される基盤をつくること。つまり、「ファンを獲得する」ことに尽きると思います。オフラインでもオンラインでも、どこにいても人が集まるという状態をつくることができれば強いです。CRAFT STOREにファンをつけること。個別ブランドにファンをつけていくこと。会社や社員にファンをつけること。そのための一つの手段が映像活用だと思います。皆さんと一緒に頑張っていければと思っています!

 

 

ニューワールド株式会社

https://neworld-japan.com/

 

CRAFT STORE

https://www.craft-store.jp/

 

旅する雑貨店 CRAFT STORE

https://www.youtube.com/c/CRAFTSTOREJAPAN/featured