「パスタ世界チャンピオン」のレシピ動画に学ぶ動画活用の極意
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今回取材をした弓削シェフが働くサローネグループは、横浜の本店の他に、都内に4店舗、大阪に1店舗を展開する「予約の取れない人気のイタリアンレストラン」。横浜サローネ2007の料理長である弓削シェフが、緊急事態宣言下で何かできないかと始めたのが動画配信。約1年で登録チャンネル数6万人、累計再生回数213万回を成し遂げた『yugetube(ユゲチューブ)』。動画配信の目的は、集客ではないにも関わらず、視聴者が弓削シェフのファンになり、ビジネスにも好影響をもたらしています。レストランを運営しながら、最低限の手間・労力・費用でYouTubeを配信。しかも機材は1台のiPhoneのみ。『yugetube』はどのように生まれ、どのように成長を遂げたのか。『yugetube』の成功の極意を弓削シェフに聞きました。
動画配信の目的は集客じゃない
2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で消費者の生活様式が一変。飲食業界は特に影響を受けた業界と言っても過言ではありません。そんな2020年4月の緊急事態宣言下に、弓削シェフのYouTubeチャンネル『yugetube』は開設されました。
弓削シェフ(以下、敬称略):当時の最優先事項は、休業となったことでお客様に提供できなくなった食材を、いかに廃棄しないで商品化するかということでした。テイクアウトを始めたことを近隣にポスティングしたり、パスタソースを開発してオンライン販売をしたり、各自ができることを考え、動く日々でした。
そのような状況下で、弓削シェフが動画配信という試みを始めたのはどのような経緯だったのでしょうか。
弓削:外出自粛生活が続く中で、スーパーの陳列棚からパスタが消えたというニュースをたまたま見たんです。だったらおうち時間を少しでも楽しんでもらい、美味しい料理を食べてもらえたら、という思いで動画配信を思いつきました。
不要不急の外出自粛、3密の回避など、飲食店には大変厳しい状況だったにも関わらず、動画の目的は当初から集客ではなかったと弓削シェフ。
弓削:動画配信の目的はあくまで「ステイホーム期間のおうち時間を楽しく&美味しく」です。それは今も変わっていないのですが、正直に言いえば、始めた当初は長く続けるつもりじゃなかったんです(笑)。
そんな弓削シェフの思いとは裏腹に、『yugetube』は多くの人から支持されています。開設から約1年で、6万人がチャンネル登録をし、累計再生回数は約213万回にまで成長しました。
『yugetube』のファンになる理由
「パスタ世界一」の称号を持ち、高級レストランの料理長でもある一流シェフと聞けば、格式高い動画を想像するかもしれません。『yugetube』はあなたの期待を良い意味で裏切ってくれます。
こんなにも気さくで親しみしみやすくて良いのだろうかと思うほど、アットホームな動画の数々。テンション高めに、楽しそうに料理をし、完成したパスタを本当に美味しそうに食べる弓削シェフ。そんな飾らない人柄も、『yugetube』の人気を牽引している理由のひとつです。
『yugetube』によって、ビジネスにもポジティブな影響が生まれています。
弓削:昨年、開設したオンラインストアの売上はおかげさまで順調です。また、ランチ・ディナーともにレストランを予約して来てくださるお客様の中で、「yugetube見ています」と言っていただける機会が増えましたね。
それでも弓削さんが繰り返し言葉にするのは、動画配信の目的は集客ではないということ。
弓削:もちろん動画を見てくれて、お店に料理を食べに来てくださったり、オンラインストアでパスタソースを買ってくださったりすることは嬉しいです。会社に貢献することも大切だと思います。でも、私の理想はこの動画を見て、家族や大切な人のためにパスタを作って食べてもらって、喜ぶ顔を見て幸せを感じて欲しいということなんですよね。
その軸をブラさず、「美味しい食事をご家庭で」という弓削シェフの想いが、動画を通じて多くの視聴者に伝わったからこそ、弓削シェフのファンが増え、ビジネスにもつながったのです。
動画活用の極意
⚫︎ 動画の目的をブラさない
『yugetube』ができるまで
弓削シェフの頭の中に動画配信というアイデアが生まれてから、実際に動画が形になるまで、どんな準備をされたのでしょうか。
弓削:集客目的ではないとはいえ、レストランのコックコートを着て動画配信をするわけですから、レストランに迷惑はかけられません。ですから、総料理長の樋口敬洋と、サービスの統括であり、元俳優の西嶋大明に相談しました。樋口は「前例がないから判断するのは難しいけど、今できると思うことをやればいい」と言ってくれました。西島は以前私がテレビ出演した番組を見てくれたらしく「動画は弓削に向いてるかも」と言ってくれました。「元俳優の西島さんがそういうなら」と、モチベーションが上がりましたね(笑)。
それから、興味がありそうなスタッフに声をかけ、カメラ担当、編集担当、サムネイル担当が決まり、レシピ担当の弓削シェフを含む4人のチーム体制でスタートすることになります。頭の中のアイデアから最初の動画配信までわずか3日の出来事です。
弓削:とにかく、まずは楽しみながらやってみようと思ったんです。実際にやってみないと「何が必要なのかも分からない」状態でしたから。最初の方の動画はかなりひどいですよ。何もわからず、iPhoneを縦にして撮影していた程です(笑)。
視聴者におうち時間を楽しんでもらいたいなら、作っている自分たちがまず楽しまないと!、というのが弓削シェフのモットー。そのためにも、スタッフには負担にならないように気をつけているそう。
弓削:空いた時間で、無理なく、負担なくが鉄則です。当然、レストランが最優先ですから。私たちのレストランでは、ご予約のお客様がほとんで、飛び込みのお客様はほとんどいません。ですから、その日の予約状況をみて、空いている時間に私とカメラマンとで厨房の一角で撮影しています。撮影自体は30分程度です。
動画を始めるときの3つの心得
⚫︎ 信頼できる人の意見を聞いてみる
⚫︎ 一緒に楽しくやっていける仲間を見つけて、まずはやってみる
⚫︎ 本業優先で。無理なく、負担なくが鉄則
『yugetube』の驚きの舞台裏
忙しい業務の中で、継続するコツはなんでしょう。
弓削:繰り返しになりますが、楽しむことだと思います。あと、数字にこだわり過ぎないこと。何が支持されるかはやってみないと分かりませんし、結果が出るまで一定の時間もかかりますから。誰でも最初は再生回数が少ないですよね。私たちも再生回数100回の時は、「これ4人で25回ずつ見てたんじゃない?」と笑いながら作業していました。
撮影で使用している機材を教えてください。
弓削:iPhone1台です(笑)
料理動画では、より美味しそうに見せるために、画質にこだわって機材に投資する人も少なくありません。そのような中で、『yugetube』の機材は1台のiPhoneだけという驚きの事実。
弓削:実は、動画の中で私がハイテンションな理由はそこです。iPhoneのマイクは一番大きい音をひろう特性があるので、私が大声を張り上げないと他の音が入っちゃうんです。他のスタッフも厨房で作業してますから。それでもダメな時はアテレコしています(笑)。
弓削さんは笑顔で続けます。
弓削:料理動画で機材にお金をかけずにこれだけ見てくださる方がいるのは、確かにレアなケースかもしれません。ただ、最初に大きな投資をすると『元を取らないと』とプレッシャーになり、楽しめなくなるケースが少なくない。いつでも止められるくらいの気持ちで始めた方がかえって続けられると思うんです。私たちも楽しく続けられて、見てくださる方も増えて、ようやく機材を買おうかって話になっています(笑)。
動画を継続するための3つの心得
⚫︎ チーム全体が楽しむ
⚫︎ 初期投資をしない
⚫︎ 再生回数や登録チャンネル数など、数字にこだわりすぎない
動画配信は、幸せを共有できるツール
『yugetube』開設当初と今とで、何か変化したことはありますか?
弓削:基本的なことですが、You Tubeの概要欄をより充実させるようにしました。ご自宅で作りやすいレシピの情報はもちろん、他のシェフの情報や、オンラインストアのURLを掲載するなど、私たちが伝えたい情報を伝える場として利用しています。ビジネスにプラスの効果が現れたのは、こういった作業をしっかりやるようになったからだと思います。
動画コンテンツの内容に関してはどうでしょうか。
弓削:視聴者のコメントを参考に、何が求められているのかをより考えてコンテンツをつくるようになりましたね。YouTubeの場合、たくさんのチャンネルから選んで見てもらうためには、「手広いコンテンツ」ではなく、「何かに特化したコンテンツ」である必要があると思います。私の場合は、それがパスタのレシピだった。視聴者の方の期待に応えられるようなレシピを考えるのは簡単ではありませんが、やっぱり「美味しかった!」と喜んでいただきたいので、そこは毎回、相当考えてやっています。それと、視聴者の方に価値を感じていただけているのは、実は「私たちにとっては当たり前の日常」かも知れないと気づいたんです。例えば、厨房の風景や料理の手元など、通常は見ることができない場面を、動画を通じて疑似体験できるというのは、動画ならではの価値だと思います。
動画活用の3つのポイント
⚫︎ 概要欄を丁寧に
⚫︎ 視聴者とコミュニケーションを大切にする
⚫︎ 自分たちの日常から価値あるコンテンツを見つける
弓削シェフから見て、動画活用はどのような可能性を秘めていると思いますか。
弓削:以前は、レストランで料理を食べた人しかその感動を味わえないと思っていたんです。でも、動画の視聴者の方が「作ってみたい」「美味しそう」「勉強になります」とか反応してくれるのを見て、レストランで料理を食べてもらえなくても、喜びや楽しさを共有することができると気づいたんですね。また、自分が働く姿を見せることで、料理の道に興味を持ってくれる人が1人でも増え、飲食業界が元気になってくれれば嬉しいです。そういう意味では、動画というのは、幸せを共有できるツールだと思います。
今後も、『yugetube』は続けますか?
弓削:そうですね。正直、レシピを考えるのは大変です。それでも見てくださる方が、少しでも楽しんでいただけるように、不定期ですが(笑)続けていくつもりです。
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