なぜヒット商品が次々に生まれるのか?経営者に聞いた成功の極意

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香川県仲多度郡琴平町(カガワケン ナカタドグン コトヒラチョウ)に本社を置く琴平バス(株)。新型コロナウイルスの影響で売上はゼロになりましたが、そこから日本初となるZoomを活用した『コトバスオンラインバスツアー』を生み出します。これまでに40種類以上のツアーを実施し、参加者は延べ2000人以上という異例の大ヒット商品に成長。前回はサービスの生みの親である執行役員の山本さんに誕生秘話をお聞かせ頂きました。

その取材の中で我々編集部が着目したのは、山本さんが5年も前から完全フルリモートワークで働いていたこと。前例のないサービスを生み出せた大きな理由は、琴平バスさんの経営スタイルにあるのではないか?そう感じた我々編集部は、今回「番外編」として楠木社長にお話を伺いました。前例のないチャレンジに挑む社員たちをどう牽引しているのか。コロナ時代に欠かせない経営のヒントを頂きます。

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楠木泰二朗(くすのき・たいじろう)
琴平バス株式会社 代表取締役
香川県生まれ。地元大学を卒業して家業である新日本ツーリストへ入社。29歳で社長に就任する。 “Something New!” “Smile & Hospitality”をコアバリューとし、うどんタクシー®、囲炉裏を搭載したKOTOBUS IYA VALLEY号、四国88ヵ所を完全踏破する歩き遍路ツアー、瀬戸内国際芸術祭オフィシャルツアーなどを企画・運営。日本初のオンラインバスツアーの生みの親。日本ご当地タクシー協会理事長。

コトバスオンラインバスツアーの成功を確信した瞬間

――編集部(以下、――) 前回、「コトバスオンラインツアー」の生みの親である執行役員の山本さんに誕生秘話をお聞きしました。最初の企画段階では社内の反対意見が多かったにも関わらず、すごいスピードで商品化にこぎ着けたことに大変驚きました。

 

――楠木代表(以下、敬称略) 確かに「コトバスオンラインツアー」の企画当初は、「Zoomでの参加は中高年のお客様には厳しいのではないか」という声が上がりましたし、社内会議から4日後に実験でやってみたトライアル版でも「これだとお金を払って参加して頂くのは難しいと思う」といった反対意見が出ていましたね。でも、企画者である山本から相談された時に「これは面白い!」と直感したところがありましたし、会議から4日後に実施したトライアル版では、さすがに時間が足りなくて、まだ構想を形にできていない状態だったので、「そうそう、そうだよね」くらいの感じで聞いてました(笑)

 

―― 社内からの反対意見には さほど堪えなかったということですか?(笑)

 

――楠木 とういうかですね、自分の中に浮かんでいた「こうすればお客様に喜んでもらえる」というイメージを、トライアルではまだ具現化できてなかったので、その時点で反対意見が出てくるのは当然な感覚があったんです。

 

―― 楠木社長の中では成功するイメージがあったと。

 

――楠木 そうですね。それまではずっと出張続きの毎日だったんですが、当時まったく外出もできない状況でしたから、久しぶりにじっくり色々考える時間が取れました。そこで色んなオンラインセミナーなどに参加して「オンライン×旅」の可能性を感じ始めていたところに山本からオンラインバスツアーの企画相談があったんです。

 

―― なるほど、楠木社長ご自身もオンラインの可能性を感じていたところに山本さんから相談があり、これはいけるんじゃないかと。

 

――楠木 山本とZoomで企画を詰めていく中で、とにかく自分自身がワクワクしていました。20代の頃、夢中になって旅を企画していたときの感覚といいますか。バスの車窓からの景色を動画にしたり、旅先で訪れる場所を中継で繋いだり、これは楽しくなる!というイメージがドンドン沸いてきたんですね。

大ヒットした日本初のオンラインバスツアー「石見神楽ツアー」

5年前から完全リモートワークの実態とは

―― 山本さんは取材時、コトバスオンラインツアーの成功は「これまでのいろんな経験が繋がっているように感じる」と仰っていましたが、実は5年前から始まっていた山本さんの完全リモートワークがその大きなきっかけだったのではないかと感じました。5年前というと、Zoomの「ズ」の字もなく、「テレビ会議」と呼ばれていた時代です。どうしてそのような思い切った経営判断が出来たのか、お聞かせ頂けますか?

 

――楠木 当社では、コロナ禍よりずっと前から3つの拠点で行う合同会議は映像で繋げてやっていました。毎朝の朝礼も3拠点合同です。当時から映像を活用していた理由は、社員の顔が見えることがコミュニケーション上とても重要だと思っていたからです。旅を扱う仕事なので常に社員は外を飛び回っていますし、離れていてもしっかりコミュニケーションが取れることは本当に大切にしていました。そんな素地もあったからか、山本のリモートワークに関しては抵抗がありませんでしたね。山本は、新卒から3年間、高松でプランナー兼添乗員として働いていてファンも多かった。リモートワークだと添乗の仕事はできないけど、企画や取引先の新規開拓、採用など、できることはたくさんあると思ったんです。オンラインバスツアーを生み出すとは当時は想像すらしていませんでしたが、彼女の経験は全て今につながっているので面白いですね。

 

―― 離れていても顔が見えるコミュニケーションを大切にしていたからこそ、リモートワークの導入も逆にスムーズだったのですね。そんな豊かなコミュニケーションから生まれた画期的なサービスが他にもありましたら教えてください。

 

――楠木 「コトバス祖谷(いや)バレイ号」は良い例かもしれませんね。これは高松市内と徳島県の祖谷を結ぶ、いくつもの名所を通る人気の路線観光バスですが、「ただバスを走らせるだけでなく、もっとお客様に喜んでいただけるように、何か工夫が何かできないか?」と考えたんですね。そしたら社員から、祖谷の古民家の雰囲気をバスの車内で表現できたら外国のお客様に喜ばれるんじゃないかとアイデアが出まして。満席にはならないだろうと後方座席の4列を撤去し、なんと「本物の囲炉裏を乗せる」という奇想天外なバスツアーが生まれました。さすがに許可が下りないかもと心配したのですが、しっかり準備を整えて臨んだところ許可が下りたので実現できました(笑)囲炉裏の周りには案山子(かかし)がくつろいでいて、ここで記念写真を撮るのが、お客様に大人気です。

 

案山子(かかし)が乗車している「コトバス祖谷(いや)バレイ号」

―― バスの車内に本物の囲炉裏を設置したんですか!?それは凄いですね(笑)そのような自由な発想で社員から新しいアイディアが出てくるために、経営で工夫されていることは何でしょう?

 

――楠木 基本的に、本人のやる気があれば「じゃあ、やってみたら」というのが弊社の基本的な考え方です。もちろん、その中には企画段階から「それは失敗するかも」と思うこともありますが、結果は行動することからしか生まれません。答えはお客様しか持っていませんから、我々は行動を起こすことを大切にしています。一つ基準があるとしたら、そのチャレンジが弊社のコア・バリューに即しているかを見ています。

 

琴平バスの経営理念とコア・バリュー

 

経営理念:

「人のため」

 

コア・バリュー:

「Smile & Hospitality」

コトバスを愛していただくために「Only youのおもてなし」「One to Oneのコミュニケーション」を大切にします。

 

「Something New!」

時代の要請に挑戦。「感動」と「ワクワク」をお届けする為、常識に囚われない革新的サービスの創造に努めます。

経営者として大切なことは、時として「KPI」より「失敗を許容すること」

―― 新しいチャレンジの際、人、労力、時間、費用といったリソース配分やKPI(経営業績指標)についてはどのようなお考えでしょうか。

 

――楠木 リソース配分やKPIはもちろん重要ですが、チャレンジすることや失敗を許容することの方が大切な場合も多いです。旅行業界においては新しい商品やサービスを作る際のハードルは高くありません。やってみて上手くいかなかったら、作り直せばいいんです。チャレンジして例え失敗しても、その気づきや学びの方が大きいですし、それは必ず今後に活かされますから。

 

琴平バスから学ぶ経営の在り方

⚫︎ 顔が見えるコミュニケーションを大切にする

⚫︎ 失敗を許容し、チャレンジを学びと気づきの糧にする

⚫︎ コア・バリューが判断基準

 

―― オンラインツアーとリアルのツアーは今後どのような展開になっていくと思われますか?

 

――楠木 よくオンラインバスツアーとリアルのツアーについて比較されるのですが、その点はいつも違和感を感じています。私は、オンラインとリアルでは、それぞれの違う役割と価値を持っていると思います。そしてコロナ禍をきっかけに、オンラインツアーもリアルのツアーも境はなく、ボーダレスなものになってきました。何度も行きたくなる旅先というのは『そこに会いたい人がいるかどうか』だと思います。私たちは、それを目指してサービスを提供しています。オンラインバスツアーで出会ったガイドやドライバーに、実際に会いに行きたいと思ってもらえるようなサービスです。ですから、オンラインのツアーでも、「Only youのおもてなし」「One to Oneのコミュニケーション」を大切にしています。

 

―― 旅行業界の今後に関してはどのような展望をお持ちですか。

 

――楠木 オンラインバスツアーに限らず、オンラインツアーがたくさん生まれています。業界の活性化につながることは嬉しいですし、私たちもお客様に選んでいただけるように努力し続けなくてはいけません。また、旅行業界に限ったことではないかもしれませんが、今後、コロナが収まっても元の世界に戻ることはないでしょう。コロナ禍で生まれたオンラインツアーはコロナ後には淘汰されるのではなく、より必要とされると思っています。リアルの旅に出かける前のプレツアーや、旅から帰ってきた後のアフターツアーなど、可能性は無限にあります。

自分が先代からしてもらったことを次世代へ

―― 琴平バスでは旅行業界全体の活性化に向け、現在、そして今後、どのように取り組んでいかれますか?

 

――楠木 昨年、岡山県にあるバス会社「両備バス」さんのバスガイドが、コトバスオンラインバスツアーを案内するというコラボ企画が実現しました。両備バスさんも、これまで他社が運行するバスに自社のバスガイドを乗務させたことはなかったそうですが、オンラインバスツアーだから実現できたんです。オンラインバスツアーは全て録画できますから、自分以外のガイドの様子を見ることができて、お互いのスキルアップにつながっていると喜ばれています。当社も同じように社員同士、添乗の様子を見合って切磋琢磨しています。社員研修の新しい形が生まれました

 

―― また、2002年からタクシー観光を普及させたいとい思いから「うどんタクシー®」※を始めたのですが、これも業界全体の活性化につながっています。

 

※「うどんタクシー®」とは、うどんの行灯(あんどん)をのせたタクシーで、筆記試験・実地試験・手打ち試験の

3部門から構成される「うどんタクシードライバー試験」にパスしたドライバーが本場の讃岐うどん店を

案内するツアーサービス。現在は「オンラインうどんタクシー®」も運行中。

 

※うどんタクシー® は琴平バス(株)/コトバスタクシーの登録商標です。

 

――楠木 「うどんタクシー®」が大変好評だったこともあり、「日本ご当地タクシー協会」を2018年に発足したんです。今では15社が加盟しています。北海道の「愛しの塩ラーメンタクシー」、石川県の「金澤寿司タクシー」、宮崎県の「チキン南蛮タクシー」など、全国に普及しつつあります。コロナ禍で旅行は難しくなっていますが、グループで貸し切りできる観光タクシーという選択肢が多少なりとも生まれたのは嬉しく感じています。

 

コロナ後の世界では、私たちは、さらにチャレンジが必要です。例えば、ドライバーもただ安全に運転ができるというだけでは不十分で、例えばガイドができるとか、スキルアップが必要になるでしょう。今後も、「会いたい人」で人と地域をつなげられるよう、新しい挑戦を続けたいと思っています。

 

うどん型行灯が目印のご当地タクシー「うどんタクシー」

―― 最後に、楠木社長の今後の抱負を教えてください。

 

――楠木 私が事業承継したのは29歳の時です。今思うと、任せてくれた先代はすごいと思います。私が若い頃にしてもらったことを、今度はこれからの時代を作る若い人たちのために環境づくりをしたいと思っています

 

―― 楠木社長、この度は本当にありがとうございました。

 

コトバスオンラインバスツアー誕生秘話はこちら!

【始動編】はこちらから

【発展編】はこちらから

 

企業情報:

琴平バス株式会社

高松営業所:⾹川県仲高松市朝日町5-3-18 ボイスビル1階
電話:087-823-5678

 

コトバスオンラインツアー:https://www.kotobus-tour.jp/online/

うどんタクシー:https://www.udon-taxi.com/

YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/watch?v=_mlZi2Bwmxk&t=54s