無料動画コンテンツでも出し惜しみしない! それが結果的にビジネスを成長させる

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ヘアサロン「Hair&Make ZEN YOKOHAMA」のオーナー兼店長であり、全国24拠点で展開しているヘアメイクを育成するプロフェッショナルスクール「日本ヘアセットスクール(JHSS)」の東京本校と横浜校の代表講師を務める田中修平さん。田中さんが運営するYouTubeチャンネル『ZEN -Hair Set Skill-』は、よくあるヘアアレンジ動画ではありません。ヘアメイクを本気で学びたい人向けの、ヘアセットの基本理論や和髪や盛り髪などのヘアスタイルの作り方を、丁寧かつ詳細に解説する人気のレクチャー動画です。田中さんの動画の目的はサロンやスクールの集客でも、受講生や社員の育成でもなく、技術者を育成し業界を底上げすること。情報は出し惜しみせず、100%出し切るという田中さん。その信念のもと継続した動画配信で得たビジネスの成果とは?

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田中修平(たなか・しゅうへい)

専門学校卒業後、4年間美容室で勤務。その後、ヘアメイク事務所に転職し本格的にヘアメイクの道へ。新宿歌舞伎町のヘアセットサロンで働き、店長を務めるが、東日本大震災でそのお店が廃業に。田中さんが従業員ごとそのお店を買取り『Hair&Make ZEN』を立ち上げ、かねてより講師を引き受けていた『日本ヘアセットスクール東京校』を継承。2013年、横浜に移転し『Hair&Make ZEN YOKOHAMA』を開店。同時に同サロンにて『日本ヘアセットスクール横浜校』を開講。現在、東京本校と横浜校の代表講師として人気を博している。

異彩を放つ「ヘアセット動画」 丁寧すぎるその理由

編集部(以下、ーー) YouTube動画のヘアアレンジやヘアセットの動画というと、一般の方へ向けた見た目華やかな物が多く、誰でも簡単に短時間で出来る方法を紹介するのが一般的。しかし、今回取材した田中さんのYouTubeチャンネル『ZEN -Hair Set Skill-』は違います。

 

プロのヘアメイクを目指している人や、現役のヘアメイクさんへ向けた、非常に実用的&本格的なヘアセットのレクチャー動画になっています。一般的なヘアセットの動画は10分前後なのに対し、田中さんの動画は20分前後と少し長め。ヘアセットの基礎や方法をとにかく丁寧かつ詳細に説明しているのが、視聴者に高く評価されている理由です。これまで約250本の動画を配信し、5.5万人の登録チャンネル数、累計再生回数は900万回に迫ります。田中さんの動画配信の目的はどこにあるのでしょうか。

 

田中さん(以下、敬称略) 私のYouTube動画の目的は、基礎理論をきちんと習得したヘアセットの技術者を増やすことです。ヘアサロンの集客が一番の目的ではありません。

 

ーー なぜ、自身のヘアサロンの集客のためではなく、ヘアセットの技術者を増やすために動画を発信するという、パッと聞くとにわかには信じがたい目的でYouTubeを始められたのでしょう。

 

田中 2005年以降の盛り髪ブームでヘアセットのニーズがガーッと高まった時に、プロのヘアメイクになりたいという方が世代を問わず一気に増えたんです。ところが急激に増えたこともあって、彼らを育成する技術者の数が全く足りていなかった。せっかく業界が伸びるチャンスなのに教える人がいなければ、技術者が育ちません。それでは一時的なブームで終わってしまい、業界が衰退していきますよね。そんな危機感から、業界全体のレベルの底上げと、ブームの継続のために始めたのがきっかけです。

 

ーー 田中さんの動画が基礎理論から応用技術まで、細かく丁寧に解説している理由はその使命感から来ていたのです。再生リストを見ると、ヘアセットの基礎技術を学ぶことに特化した動画が40本以上あり、これからプロのヘアメイクになりたい人にはありがたいコンテンツばかりです。

基礎理論をしっかり伝えている動画の実例【4つ編み徹底解説】

田中 ヘアセットは時代ごとに流行り廃りもあるし、地域によっても好みや違いが出ます。だけど「基礎理論」は変わりません。どんな複雑なヘアスタイルも、全て土台となる基礎技術があって初めて成り立っているんです。そこをしっかり理解していると、キャリアの中で絶対に役に立ちます。ヘアメイクの仕事をしていれば誰しもスランプに陥ることだってありますが、この基礎理論に立ち返ると光が差すことが多い。行き詰まった時に、立ち返れる場所として動画を活用してほしいという願いもありました。

 

ーー 田中さんの口から何度も語られる「基礎」の大切さ。自身のビジネスのPRではなく、あくまで次世代の技術者を育てることにこだわっています。

 

田中 大切なのは再現性です。才能ある人が感性で作ったヘアセットを見れば「すごい!」とはなるかも知れませんが、技術者を育てるためには「すごいけど真似できない」では全く意味がないんですよね。だから私の動画では、見た人がヘアセットを自分で再現できるように、基礎の部分は丁寧すぎるほどしっかり伝えるようにしています。

 

人気動画の秘密

⚫︎ 再現性を高く保ち、多くの人に役に立つコンテンツ

⚫︎ 基本理論が丁寧に解説されている

出し惜しみをせず、100%情報を出し切る

ーー 気になるのは、無料動画コンテンツと有料コンテンツのバランスです。田中さんは、ヘアメイク専門のプロフェッショナルスクール『日本ヘアセットスクール』の代表講師として、有料のプライベートレッスンを東京本校と横浜校で受け持っています。ここまで丁寧なレクチャー動画を無料で配信するのは、スクール側として問題ないのでしょうか。

 

田中 確かに当初はかなり気をつかいましたね。なので、スクールで扱うカリキュラムのコンテンツと動画コンテンツは絶対にカブらないように、動画のコンテンツは全て僕のオリジナルなんです。

 

ーー とはいえ、あれだけ丁寧なレクチャー動画が250本もあれば、「スクールに通わなくてもいい」という選択肢ができてしまい、ビジネスの機会損失につながってしまうのでは?

 

田中 もちろん、動画で技術習得が完了してしまう方もいらっしゃり、ありがたいことにそういう方からの感謝の声も頂いています。それを踏まえても、動画コンテンツの内容を出し惜しみしてプラスになる事が、実は少ないんじゃないでしょうか。どんな動画でもやっぱり100%伝わることなんてないと思うんです。良くて60~70%伝えられるとして、出し惜しみした動画だと、そこからさらに60~70%しか伝わらないことになる。それだと学べることが減り、視聴者が次の動画も見たいと思ってくれず離れていき、本末転倒ですよね。もとより私は特になんですが、100%出したつもりでも出せていないことがほとんどなので、絶対に出し惜しみをしようとしないことです。

 

ーー 60~70%しか伝わらないというのは、例えばヘアセット動画の場合、具体的にどんなところが伝えきれないのでしょうか。

 

田中 やはり「見る」だけでは限界があるんですね。例えば、ヘアセットの場合、髪の温度が非常に大切なんですが、熱い状態から冷めていく過程で、どのくらいの温度・タイミングで髪をほぐしたらいいか、視覚情報だけではなかなか伝えきれません。ですから私のヘアセット動画が、スクールで行う直接指導の価値を下げることは決してないんです。

無料動画コンテンツのあり方

⚫︎ 情報を出し惜しみしない

⚫︎ 100%伝えるつもりで、情報を全力で出し切る

基礎理論を踏まえて上で、上級者向けの応用編の動画も紹介している

動画で得られた思いがけない効果

ーー 実際に、「動画だけでは分からなかったのでスクールに来ました」という人が本当に多いという。田中さんのヘアセット動画は、実際のビジネスにも様々な効果をもたらしているそうです。

 

田中 動画は全て私のオリジナルのコンテンツなので、ネタ探しには毎回苦労していました。そんな時、スクールの生徒さんから上がってきたカリキュラム以外の質問を動画にすることを思いついたんです。動画があれば、生徒さんは自宅でも復習できます。「残る」という点でも動画はとても喜ばれています。僕は動画の投稿頻度をあげられるし、お互いメリットがあったんですね。

 

ーー これらの生徒さんからの質問に回答する動画は『日本ヘアセットスクール』の集客にも大きく貢献したと言います。

 

田中 生徒さんのリアルな悩みから生まれた質問を動画コンテンツにし始めて、資料請求や体験レッスンの申し込みにつながる確度が非常に高くなりました。これは意図したことではなかったのですが、結果として、とても良いサイクルが生まれています。また、動画を見た方が「田中から習いたい」と入学につながるケースも全国であるようです。これも始めた頃の動画の目的にはないことだったので、嬉しい誤算ですね。

 

ーー ビジネスへの影響はスクールだけではありません。

 

田中 動画を見てくれた方が、和髪やフィンガーウェーブのセットをして欲しいと私を指名することも増えましたし、来店したお客様が「動画見ています」と言ってくれることもとても多いです。でも、物理的に横浜まで来られない人もいますよね。そういう人のために、僕の動画が持ち込みのヘアセットレシピみたいな役割になればなぁと。僕の動画のサムネイルに全てヘアセットの仕上がりを載せているのはそういった理由なんです。

動画を成果に結びつけるために

⚫︎ 現場で生まれるリアルな質問を動画のコンテンツに活用する

⚫︎ 見てくれる人のメリットを一番に考える

継続する秘訣は、「頭はクールに、心は身軽に」

ーー 多くの人に役に立つコンテンツを発信し続けるために、田中さんが取り組んでいることはありますか?

 

田中 YouTubeのアナリティクスは研究しましたね。1年の周期や再生回数のリズムから、視聴者の需要がどこにあるかがわかるからです。ヘアメイクに携わる人にとって、盛り上がるのが、1月の成人式、3月の卒業式、9月10月のブライダル、11月に七五三などです。ヘアメイクさんたちがどういう時期に、どういうキーワードのものを求めているのかをこういうツールを使って把握することは重要だと思います。それを分かった上で、今年バージョンにアレンジして発信しています。

 

ーー 動画配信を継続する秘訣も教えてください。

 

田中 最初は無理を絶対にしないことです。特に動画は、最初は結果が出づらいので、ゆるい気持ちで始めてください。投じる一石は小さくていい。几帳面になりすぎず、まずは一本作ってみる。そこからしばらく無理にならない程度に続けてください。もっと投稿したいと思えるくらいのペースが丁度いいと思います。

 

ーー 撮影機材に関して、何かこだわりはありますか?

 

田中 う〜ん。特にないですね(笑)。機材はペンタックスの一眼レフ、三脚、ピンマイク、マネキンとそれを支えるクランプという台だけ。こだわると窮屈になっちゃうので。「あれがないと撮れない」とかを極力無くして、融通が効くようにしています。その方が楽ですし、毎週のこととなると特に私は心も身軽でないと続きませんから。

 

ーー 田中さんが、コンテンツをヘアセットに特化した理由もそこにありました。

 

田中 自分の好きなこと・得意なことにテーマを絞ることが大切なのはもちろんですが、継続するためには重要なのは、準備するものが一番少なくて済むやり方を工夫するということかも知れません。例えば、私の動画は「カット」ではなく「ヘアセット」なので、マネキンとウィッグさえあれば、何度でも使い回すことが出来ます。モデルさんではなく、マネキンを使っているのも、コストを抑え、時間効率を良くするためです。動画制作に必要な設備や人員は最小限に抑えることがポイントですね。

動画活用を続けるコツ

⚫︎ 内容以外の余分なこだわりを極力なくす

⚫︎ 設備を必要最小限にする

⚫︎ 最初は特に無理はしない。その後ももっと作りたいと思えるペースで続けてみる

田中さんが考案したオリジナルのヘアセット動画

動画は小規模事業者の武器

田中 個人が動画でコンテンツを自由に発信できるというのは、私たちのような小規模事業者にとってはものすごい武器になると思います。私の場合は、動画が名刺代わりになっていますし、色々説明する手間も省けます。また、動画の反響のおかげで、美容協会や大手の美容専門学校から講師依頼をいただくようにもなりました。自分の気まぐれや、業界への貢献という自己満足で始めた動画配信でしたが、継続することでその影響は自分が想像した以上のものになっています。

 

ーー 最後に、これから動画活用をされる事業者さんへメッセージをお願いします。

 

田中:まずは、客観的な視点で業界を大きく捉えてみてください。全体の動向が掴めていないと、頑張る方向性が見えないからです。現状が把握できたら、そこからクローズアップしていってまだ開拓の余地の大きいブルーオーシャンを見つけてください。流行のキーワードに飛びつくのも一つですが、そこはレッドオーシャン化していることが多いです。そこに一捻り加えるだけでもライバルはグッと減ります。そこに潜在的に需要があるかないかを、やりながら見極めて行けばいいと思います。

 

現在、Udemyというオンラインマーケットプレイス上でヘアセット動画を販売することを計画中だという田中さん。

 

田中 今、これまでアップした動画の中から10本くらいを英語にしたんです。業者さんの協力の下、ネイティブの英語をアテレコした動画を試験的に配信し、海外の方にどんなコンテンツが求められているかを見定めているところです。それから反響を見てUdemy用の動画を制作して、海外展開していきたいと思っています。

 

ーー 今後の展開も楽しみにしています。

動画のメリット

⚫︎ 小規模事業者にとっては必殺の武器になる

⚫︎ ブランディングにも名刺がわりにもなる

⚫︎ ビジネスチャンスが広がる

 

 

企業情報:

Hair&Make ZEN YOKOHAMA

https://www.the-ZEN.co.jp/

 

 

〒231-0014神奈川県横浜市中区常盤町2丁目15モダン関内ビル205

045-681-1255

 

YouTubeチャンネル:ZEN-Hair Set Skill-