保護犬から災害救助犬に 話題の動画の舞台裏 〜殺処分ゼロの世界へ 込められた想い〜

INDEX

殺処分対象だった1匹の犬「夢之丞(ゆめのすけ)」との出会いから始まったピースワンコ・ジャパンの挑戦。「殺処分ゼロの世界」を目指し、犬たちの変化やスタッフの想い、日々の飼育やトレーニングなど、「日常」から紡ぎ出される「物語」を動画やテキストで情報発信している。特に保護犬から災害救助犬となった「夢之丞」の物語は多くの人に保護犬の存在や殺処分の現状を知ってもらうきっかけに。命の現場で命に向き合う人たちに、動画配信や情報発信における工夫や注意点を聞きました。

プロフィール写真

ピースワンコ・ジャパンについて

ピースワンコ・ジャパンは、NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが人と犬との真の共生を目指して運営するプロジェクト。ピースウィンズ・ジャパンは、イラクの難民支援から始まり、これまでに世界34の国と地域で人道支援をおこなっている。東日本大震災以降、国内の災害支援も行う中で災害救助犬の育成に乗り出し、保護犬から救助犬の候補を見つけるために県の施設を訪れる。その際、ドリームボックスという殺処分機に入れられた犬たちは、窒息でもがき苦しんで死んでいくという事実を知ると同時に、殺処分対象の1匹の犬と出会う。その犬は、「夢之丞(ゆめのすけ)」と名付けられ、後に災害救助犬となり、国内外の現場で命を救うために活躍している。その「夢之丞」との出会いをきっかけに、2012年から捨て犬や迷い犬の保護・譲渡活動を本格化。2016年4月には広島県内の動物愛護センターで殺処分対象となった犬を引き取る大事業に乗り出した。「殺処分ゼロ」の記録は2016年4月以降、1960日を更新している。

「犬の殺処分ゼロ」を目指して

編集部(以下、−−) ケージの中で体を丸め、震えながら殺処分を待つ小さな子犬。この殺処分対象の子犬が、後に災害救助犬となる「夢之丞(ゆめのすけ)の物語」を皆さんは知っていますか?

ミチシルベ(道標)〜ピースワンコ・ジャパン 夢之丞物語

−− この物語を制作したのは広島県神石高原(じんせきこうげん)町で国内最大級の保護犬シェルターを運営するピースワンコ・ジャパン。母体であるNPO法人で災害救助犬を育成する事業に着手するために候補犬を探しに訪れた広島県の動物愛護センターで出会ったのが「夢之丞」でした。犬の月齢や性格、人に慣れていない野犬など、譲渡先が見つかりづらいと判断された犬たちは殺処分対象に。ドリームボックスという殺処分機に二酸化炭素を注入され、もがき苦しんで死んでいくという悲惨な事実を知り、「犬の殺処分ゼロ」をミッションに、捨て犬や迷い犬の保護・譲渡活動を2012年より本格化させます。かつて犬猫の殺処分数が全国ワーストだった広島県の殺処分機は、2016年以降、止まったままです。

動画は「百聞は一見に如かず」以上の効果が

−− ピースワンコ・ジャパンは、2017年11月にYouTubeチャンネル『ピースワンコテレビ』を開設以降、さまざまな動画を配信していますね。

 

広報室 YouTubeチャンネル開設前は、会員の方達に向けた会報が紙ベースだったので、動画もあれば、私たちの日々の活動がより伝わるんじゃないかと思ったのが始めた理由の一つです。もう一つの理由は、一人でも多くの人たちに、保護犬の存在を知ってもらいたいと思ったからです。それが、殺処分ゼロの未来に近づくことになるので。

 

−− ただ可愛い犬の映像だけでなく、殺処分機の映像や、愛護センターで怯える犬たちの様子など、ショッキングな映像もあり、どれもとても考えさせられる動画ですね。

 

広報室 そうですね。現場にお願いしていることは、なるべく日常を記録に残すこと。私たちの日常は、物語で溢れています。それは犬たちもそうですし、犬と向き合っているスタッフも同じです。ありのままの姿を伝えることが、とても重要です。

 

−− 「ありのまま」とは具体的にどのようなことでしょうか。

 

広報室 例えば、愛護センターにいる段階と、トレーニング施設を出て譲渡先を見つける段階の犬では、同じ犬とは思えないほど、様子が全く違います。この変化を伝えるには動画が最適です。愛護センターでケージにいる犬たちの怯えた様子を見れば、視聴者の方はそこから保護犬の問題を想像することができます。また、トレーニング施設での犬の様子や譲渡される犬の様子を見れば、スタッフがどれだけ愛情をこめて日々犬たちと向き合っているかを分かっていただけます。「百聞は一見に如かず」です。私たちが逐一説明しなくても、動画で全てを見せなくても、受け手がしっかり考えてくれるんですね。数分の動画で、伝えたい以上のことが伝わるのはありがたいです。

 

−− 確かに、愛護センターで人間に牙を剥いていた犬が、動画の後半ではまるで別の犬のようにスタッフとじゃれあっている姿は、動画が発信する情報以上に、心に訴えるものがありますね。

咬傷犬だったノーマンが!

広報室 はい、なのでbeforeとafterを記録することがとても重要です。愛護センターから保護して、検疫施設からトレーニングの経過をしっかり記録することで、譲渡の機会も増えるかもしれません。何よりも、一人でも多くの人に、保護犬の存在を知ってもらって、犬を飼う時に「保護犬」という選択肢が生まれて欲しいと願っています。

メッセージを伝えるために大切なこと

⚫︎ ありのままの姿をできるだけ残しておく

⚫︎ beforeとafterを見せる

⚫︎ 現場を一番わかっているスタッフに日常を残してもらう

広報と現場が二人三脚で取り組む秘訣

−− 動画配信における運営体制を教えてください。

 

広報室 日常の犬たちの記録は、現場の飼育スタッフの協力が欠かせません。忙しい中で、日々の犬たちの様子を写真や動画で残してくれています。犬たち以外のコンテンツであるスタッフへのインタビューや活動の内容の撮影を始め、全ての編集作業は専任のスタッフ1人です。そのカメラマンと私たち広報チームの計4人で週に一度広報戦略会議を行っています。その会議で、動画だけでなく、SNS全般について、どんな内容をどのような形で発信するかを決めています。

 

−− 現場に100人以上の専属のスタッフがいる中で、広報チームと現場のスタッフが同じ方向を向いて情報発信するのは簡単じゃないと思います。

 

広報室 おっしゃる通りです。気をつけないといけないのは、広報サイドの希望を一方的に押し付けないことです。撮りたい画やスケジュールの都合を優先してしまうことって、結構あると思います。現場を理解することが最優先です。

 

−− ピースワンコ・ジャパンでは、現場と広報は良い関係を築けていると思いますか?

 

広報室 全員の理解を得るのは難しいかもしれませんが、広報に理解のあるスタッフが架け橋になってくれることも多いです。ですから、現場のスタッフとの密なコミュニケーションは何よりも大事です。情報発信の目的や目指しているゴールを共有することも常に心がけています。

 

−− コミュニケーションを取る中で気をつけていることはありますか?

 

広報室 一番気をつけていることは情報発信の目的である「犬のため」がブレないようにすることです。例えば広報と現場だけでなく、検疫のスタッフとトレーニングのスタッフでも、立場も考え方も違いますよね。そうした人間サイドの様々な違いをお互いに押し付け合うと、摩擦や誤解が生じやすい。でも、「犬のために」という目指すゴールは、どんな立場でも変わりませんから。そこだけ間違えないようにしています。

広報と現場が一致団結する秘訣

⚫︎ 広報をより理解してくれる協力者が必要

⚫︎ 広報サイドの希望を押しつけない

⚫︎ 現場とのコミュニケーションが必要不可欠

⚫︎ 「犬のため」という目的をブレないように徹底する

 

ピースワンコシェルターの1日

動画で共感が生まれ、チームになる

−− YouTubeだけでなく、SNSも積極的に活用していますね。SNSで発信するための工夫と得られた効果を教えてください。

 

広報室 Facebookは約58,000人がフォローしてくださっていて、主に画像とテキストで情報発信しています。Facebookは投稿に文字数の制限もないので、自分たちの想いがしっかり届いている感覚はあります。逆にTwitterとInstagramは動画を多用しています。フォロワー数はこれからですが、Facebookとは違った、より若い層に届いている実感があります。拡散力がありますし、今後は採用でも活用していきたいです。媒体ごとに読者・視聴者を明確にし、届きやすい方法を都度、模索しています。

 

−− 映像とテキストはどのように使い分けているのでしょうか。

 

広報室 視覚から情報を得ることで、興味関心や、共感が生まれているのだと思います。その後に、少々長めのテキストを読んで理解を深めてくださっていると思います。動画では「物語」を、テキストでは「想い」を意識して発信しています。これらの相乗効果で、結果としてサポーターになってくださったり、譲渡に繋がったりしていますね。

 

−− 動画を活用してから、何か変化はありましたか?

 

広報室 動画の最大の強みは「共感」し「共有」できることだと思います。こちらが一方的に発信しているだけでなく、動画を発信したことによってコミュニケーションが生まれ、「チーム」になっている感覚です。自社でこういったチャンネルを持てるのは、強みだと思います。

卒業ワンコ同窓会!心からありがとう。

−− 現在、2,600頭の犬を収容しているピースワンコ・ジャパン。年間の運営費は10億円で、そのほとんどを寄付と会費で賄っています。全国の保護団体の努力により、殺処分件数は減少傾向にあるものの、今でも年間5,600匹の犬が殺処分されています。

 

広報室 殺処分数が全国ワースト1位だった広島県で殺処分機の稼働をストップできています。全国の殺処分をゼロにすることは決して不可能ではないんです。

 

−− ピースワンコ・ジャパンの挑戦は続きます。

動画で得られた成果

⚫︎ 視覚から情報を得ることで理解が深まる

⚫︎ 動画は物語を発信し、テキストでは想いを発信する

⚫︎ 媒体ごとに最適なメッセージを最適な形で届ける

 

参照:環境省のデータ

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

 

 

ピースワンコ・ジャパン

 

 

ピースワンコ・ジャパンへの支援について

https://peace-wanko.jp/support.html

 

YouTubeチャンネル『ピースワンコテレビ PeaceWankoTV」

https://www.youtube.com/c/PeaceWankoTV/featured

 

公式Facebook

https://www.facebook.com/pwj.rescue.dog/

 

公式Twitter

https://twitter.com/PeaceWankoJapan

 

公式Instagram

https://www.instagram.com/peacewankojapan/

 

公式LINE
https://page.line.me/peacewankojapan