映像プロデューサーに聞く!中小企業の新たな価値を発掘する動画制作の極意と技法
INDEX
- 「伝える」ではなく、「伝わる」映像でなくては意味がない
- 映像制作は、企業の“埋没資産”を発掘できる
- 埋没資産を発掘するための取材技法を特別公開!
- 映像制作が従業員のパフォーマンスを上げるツール⁈
- お互いを「よく知る」ための「物語」の作り方
中小企業・地方自治体が直面する課題に対し、全く新しい価値と関係性を映像制作の過程から導き出してきたアースボイスプロジェクト。制作や監修をした動画は2,000本を超える。自社独自の動画制作手法で、その企業がまだ気づいていない価値を発掘し資産に変えてきた。代表の榎田竜路(えのきだ りゅうじ)さんに、中小企業が動画を活用する意義と、これまで1,500人以上を育成してきた動画編集の技を聞きました。
「伝える」ではなく、「伝わる」映像でなくては意味がない
編集部(以下、−−) アースボイスプロジェクトが制作する映像は、ユニークな手法を用いているそうですね。どのような映像なのでしょうか。
榎田さん(以下、敬称略) 私たちの映像は、視聴者が動画を見終わった後に、「なんか、いいな」という感情を、自然発生させる映像です。抽象的に思われるかもしれませんが、視聴者が自然と「共感」や「納得感」を得られるように情報を組み合わせて編集しています。共感がなければ納得感は生まれません。そういった感情を自然発生させることで、最終的に「問合せ」につながるんです。私たちが制作・監修した動画は、視聴者と動画を提供する企業との間に「新しい関係性」を生むことに最大の特徴があります。
−− 「新しい関係性」とはどういうことでしょうか?
榎田 例えば、展示会用に制作した動画によって、「一緒にこんなことできませんか?」と世界的企業からオファーをもらった地方の小さな企業がいます。また、県外に出ていた若者が地元に帰ってきて就職したり、社内の生産性が見違えるほど上がったりということが、全国各地で起こっています。企業によって得られた成果は違っても、全て共通しているのは、「新しい関係性」が生まれたことです。「伝える」ではなく、「伝わる」映像が、僕たちの最大の強みです。
−− 「伝える」と「伝わる」の違いはなんでしょうか。
榎田 「伝える」というのは、言い換えると内容を押し付けることでもあります。残念ながら、そこからは新しい関係性は生まれません。見た人が、自然に共感できるような映像ではなくては意味がないんです。
映像制作は、企業の“埋没資産”を発掘できる
−− 新しい関係性を築く動画作成には何が必要ですか?
榎田 まず、映像制作の過程で、企業自身が気づいていない自社の価値や可能性を発掘することです。丹念な取材や撮影の過程で発見することがほとんどです。それも、一見全く無関係と思えるような場面やエピソードから発掘することが多いですね。この企業側も気づいていない価値を、僕は「埋没資産」と呼んでいます。
−− 企業が認識している価値や強みではダメなのでしょうか。
榎田 ダメなんです。これまで1万人以上にインタビューしてきましたが、他社がどこもやっていない革新的な製品やサービスって、この時代にはゼロに等しいんです。でも、丁寧に取材をしていると、その企業の製品やサービスの背景や蓄積には、まだ誰も気づいていない価値や資産が見つかります。自社でそれを見つけることはどの企業も苦労していますし、そもそも探そうとしていないことがほとんどです。
−− 埋没資産を自社で発掘するために、何かできることはありますか?
榎田 先ほどお伝えしたように、埋没資産は偶然に発掘されるので、日頃から多様な人とつながる機会を持つことだと思います。他人や世間が自社のことをどう見て、(どう)感じているのか、という視点を持つだけで、発掘できる可能性はかなり上がると思います。
−− これまで埋没資産を発掘した企業は、具体的にどのような成果につながりましたか?
榎田 ある企業さんから「海外の展示会などに商品を出展しても、商品の良さを伝えることができない」と相談され、その企業の持つ素晴らしい技術の根底にある経験値や可能性を映像化しました。英語版の映像を見た米国の輸送機製造会社から問い合わせがあり、新規受注につながりました。中国での展示会では、映像を見るために多くの人がブースに集まり、新たな交流が生まれ、様々な学びや気づきがあったと喜ばれました。
中小企業における 映像を活用する極意
⚫︎ 「伝える」ではなく「伝わる」映像が必要不可欠
⚫︎ 映像に必要なのは共感と納得感
⚫︎ まだ気づいていない価値を映像化することで、新しい「関係性」が生まれる
埋没資産を発掘するための取材技法を特別公開!
−− 埋没資産を発掘するためには、榎田さんはどのような取材をするのですか。
榎田 その人の、「ストーリー」と「スペック」を徹底的に聞くんです。「スペック」は現在の話。「ストーリー」は過去の話。その現在と過去の話を繋げて「ヒストリー」を作る。このヒストリーを何筋も作ることで、たくさんのフックを映像に内蔵します。
−− そこからどのように問合せにつながるのでしょうか。
榎田 そこが映像の醍醐味です。視聴者に「空想させる」、いわば空想誘導ですね。映画も同じです。劇中の伏線やエンディングなど、勝手に空想して盛り上がりますよね。映像も、情報の全てを出すのではなく、「機(タイミング)・度(強弱)・間(つながり)」を駆使して、視聴者に空想させるんです。特に重要なのが「間」です。情報が少なすぎると間が持たないし、多すぎると追いつけません。違和感なく、自然につながるような工夫が何よりも大切です。
−− 具体的にどのような工夫が必要なのでしょうか。
榎田 私たちは映像を「言語」の一つと考えています。そしてこの映像言語は、「文字」「画像」「音声」の3つで構成されています。動画だけではない理由は、「間」が必要だからに他なりません。特別に作られた音楽の構成に従って、文字と音声と画像をどう配置していくかということです。これを習得するには、稽古を重ねるしかありません。
榎田 それからもう一つ大切なことは、第三者観の情報を入れることです。人間は「自分のことを褒める人(企業)、自慢する人(企業)」を嫌う生き物です。第三者の目線を入れることが、信頼に直結します。また、肉声も信頼につながる大きな要素です。映像の冒頭に入れると、信頼度がアップします。実績などの信用情報より前に、信頼情報を持ってくるのがコツです。
埋没資産を発掘する取材手法
⚫︎ 「ストーリー」と「スペック」を徹底的にインタビューし、「ヒストリー」を見つける
⚫︎ 「機(タイミング)・度(強弱)・間(つながり)」で空想誘導する
⚫︎ 「文字」「画像」「音声」で違和感のない「間」をつくる
⚫︎ 第三者観情報と肉声で信頼を獲得する
映像制作が従業員のパフォーマンスを上げるツール⁈
榎田 埋没資産を発掘し、問合わせが増えた後、違う悩み相談が増えたんです。どういうことかというと、忙しくなったせいで人がどんどん辞めてしまうと。それを解決したのも、実は映像制作です。
−− 離職を食い止めるのも映像制作ですか?どういうことでしょうか。
榎田 取材を通して、その会社や働く人の物語を作るんです。そこで何が生まれたかというと、「お互いをよく知り合う」ということ。中小企業という限定された組織では、お互いを知るということが本当に大事です。たとえ苦手な相手でも、その人の背景や信条を知れば、共感が生まれ、社内コミュニケーションが劇的に改善します。業務効率も格段に上がりますし、下手に飲み会なんかするより、企業の成長につながると思います。そういった社長紹介や社員紹介の映像で、採用が成功した企業も多いです。
−− 採用にもつながるんですね。
榎田 企業と地域も同じなんです。「お互いに、よく知っている」ということで生まれる「つながり」が中小企業の成長には欠かせないと思います。ある信用保証協会さんから、「内定辞退を阻止したい」と相談されました。そこで、若手社員、中堅社員、リーダーそれぞれに取材をし、若手社員には仕事のやりがいを、中堅社員には仕事の志を、リーダーには仕事の哲学を軸に物語を作りました。結果、例年だと5人に内定を出し、3人入社していたのが、その年は、内定を出した5人全員が入社をしたそうです。
お互いを「よく知る」ための「物語」の作り方
−− 物語を作る時に効果的な取材手法はありますか?
榎田 「パッション」、「ミッション」、「ビジョン」の3つを丁寧に聞くことです。それぞれを言い換えると、パッションは「志」、ミッションは「志に基づいた行動」、ビジョンは「世界観」です。さらに、「センス=美意識」、「スキーム=立場」、「スキル=やっていること」の関係性を探ってください。ここを丹念に取材することが第一です。
−− 次に、その取材した内容を構造化し「整理」します。最後に「編集+伝達」という3つの流れが基本的な映像制作における流れです。
榎田 物語を作る上で重要なのが、テーマを一つだけ選ぶこと。最初にタイトルを作るといいですね。形容詞や副詞など、とにかく削ぎ落として、言いたいことを一つに絞る。結局、シンプルなのが一番力強いんです。
「お互いをよく知る」ための物語の作り方
⚫︎ 「パッション」、「ミッション」、「ビジョン」を聞く
⚫︎ 「センス=美意識」、「スキーム=立場」、「スキル=やっていること」の関係性を探る
⚫︎ それぞれを組み合わせ、物語を作る
⚫︎ テーマは一つだけ選ぶ。それ以外は削ぎ落とすこと
−− 最後に、動画活用で成果をあげたい事業者へメッセージをお願いします。
榎田 多くの人が「こんなターゲットに、こういう情報を届けたい」と的を定めた一発必中の動画制作に陥りがちです。でもこれはNGです。「的」に当てることを重視すると、狙いやすい「的」が必要になる。その「的」は、決して新しい価値ではなく、すでに誰かが生み出した価値で、それは「より早く、より多く、より安く」という方向に成らざるを得ない。だから映像では、「百発2、3中」を目指した方が良い。これは100本映像を作りましょう、ということではなく、映像の中に100のフックを仕掛けて、2〜3当たれば良いということです。同じ映像でも、必要としている人に、必要な情報が伝わり、最適なマッチングを促すことが映像だと可能です。ぜひ、映像を通じて、みなさんが気づいていない新たな価値や資産を発掘してみてください。
映像で成果を上げるためのアドバイス
⚫︎ 映像に様々なフックを仕掛け、最適なマッチングを促す
⚫︎ 一発必中を狙わない
取材社情報
Earth Voice Project(アースボイスプロジェクト)
Earth Voice Project YouTubeチャンネル