クラウドファンディング、支援1万人&1億超で達成 !  「#おうちで飛騨牛」プロジェクト 成功の舞台裏

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新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、高級食材の飛騨牛の卸売り相場が一気に崩れた。競り価格が4ヶ月で40%下落、10年前の水準に。牛は生き物、成長は止められない。出荷時期をずらすのも難しい。これまでに経験したことのない最大の危機に、立ち向かう面々。地域一体となって挑戦したのはクラウドファンディング。なんと1万人・1億円以上の支援を獲得!その大成功の舞台裏を仕掛け人であるJAひだの橋本直幸(はしもと なおゆき)さんと、ヒダカラ代表舩坂 康祐 (ふなさか こうすけ)さんに聞きました。

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【#おうちで飛騨牛 プロジェクトについて】

新型コロナウイルス感染拡大の影響で観光客が減少し、外食市場も縮小。枝肉相場が4ヶ月で40%下がるなど、生産者や精肉店はこれまでに経験したことがない危機的状況に陥った。約2年半掛けて手間暇かけ育ててきた牛。「命あるものだからこそ、今、正しい形で消費されてほしい。飛騨牛を食べに来られないのなら、こちらから届けよう。飛騨牛のファンを増やそう!」そんな想いから生まれたのが国内最大のクラウドファンディング「CAMPFIRE」を活用した『#おうちで飛騨牛 プロジェクト』。60人の生産者、15の精肉店、JAひだ、飛騨信用組合、十六銀行、十六総合研究所、株式会社ヒダカラという飛騨牛を愛する団体が一致団結し、高山市、飛騨市、下呂市、白川村の3市1村が後援につく、飛騨地域一丸で臨んだビックプロジェクト。支援総額1億1437万円は「CAMPFIRE」歴代3位、支援者数1万2人は歴代2位という快挙に。CAMPFIRE クラウドファンディングアワード2020で最高賞である総合賞1位を受賞。

準備期間はわずか2週間。一体どうやって?

編集部(以下、−−) なぜ、クラウドファンディングに挑戦したのでしょうか。

 

橋本さん(以下、敬称略) 2020年4月の危機はこれまでの比ではありませんでした。競り価格は4ヶ月で40%下落し、10年前の水準になってしまいました。このままでは生産者がやっていけませんし、精肉店さんの経営も成り立ちません。なんとかしないと、と十六銀行のシンクタンクである十六総合研究所の主任研究員である田代達生さんに相談したところ、ヒダカラの船坂社長を紹介され、クラウドファンディングのアイデアに行き着いたんです。

 

舩坂さん(以下、敬称略) 弊社は以前、物産展をオンライン開催するプロジェクトでクラウドファンディングの成功事例がありました。そのプロジェクトも市の地域振興課や観光協会、飛騨信用組合などで実行委員会を立ち上げて取組んだこともあり、田代さんが声をかけてくれたのだと思います。

 

橋本 クラウドファンディングの良いところは、実行までのスピードの早さです。当時は、待った無しの状態でしたし、ゴールデンウィークになんとしても間に合せたかったんです。去年の連休は、みんなどこにも出かけられない状況でしたから。そのタイミングこそチャンスだと思いました。

 

 

舩坂 クラウドファンディングのもう一つのメリットは、プロジェクトの背景や過程、支援する人や金額が全て見えることだと思います。単に飛騨牛の消費先を開拓するのではなく、コロナ禍における生産者の現実や精肉店の想いなど、情報発信が何よりも重要だと思ったんです。

 

橋本 田代さんから船坂さんを紹介してもらって、クラウドファンディングをやることが決まったのが4月14日で、17日に関係各所の稟議が通ってキックオフ。4月29日がプロジェクト初日でした。

 

−− そのスピード感はものすごいですね。

 

橋本 時間がない中で、それぞれの強みを活かした役割分担をしたのが大きかったと思います。JAひだは精肉店や生産者の連絡や調整を。十六総合研究所さんは企画、飛騨信用組合さんはcampfireとの連携、ヒダカラさんは企画・制作・広報を担当しました。

 

−− 60の生産者と15の精肉店の連絡や調整だけでも目が回りそうですね。

 

橋本 本当に大変でしたね。ただ「飛騨牛のピンチ」という共通認識があったので、一致団結できました。

クラウドファンディングのメリット 

⚫︎ 実行までのスピードが早い

⚫︎ プロジェクトの背景、過程、結果が全て見える化する

一日で4000万円の支援が!初日の情報発信の極意

−− 当初の目標は1000万円だったそうですね。

 

橋本 はい。プロジェクト開始の翌朝、サイトを開いたら4000万円の支援をいただいていて、あれには本当に驚きましたね。

 

−− 一日で4000万円ですか!一体何が起きたのでしょうか。

 

舩坂 1日で4000万円は想像を遥かに超える金額でしたが、初日の情報発信を綿密に準備したのは事実です。「クラファンは初日が重要」というのは業界の常識なんです。ですから、プロジェクト初日にテレビのニュースで取り上げてもらえるように広報戦略を立てました。

 

−− 具体的にはどのようなことをしたのですか?

 

舩坂 今回のプロジェクトは想いやストーリがあるのでマスメディアも興味を持ってくれると思いました。特にテレビを重視したのは、やはり瞬間的な発信力があるからです。テレビで取り上げてもらうためには、どんな画(え)が撮れるかということが重要になります。そこで、記者会見の前に生産者さんの取材をアレンジしたんです。生産者さんが牛舎の前で、コロナの現場を訴え、手塩にかけた飛騨牛を食べてほしいとメッセージを発信しました。その結果、東海圏全てのテレビ局が取材に来てくれてその日の夕方から翌朝にかけて放映されたんです。

クラウドファンディング成功の条件 

⚫︎ 初日の情報発信が重要

⚫︎ テレビ局が撮りたい映像を想定し取材を誘致した

クラファン成功に欠かせないTwitterの拡散力

−− プロジェクト期間中に、多くの人に情報を届け、盛り上げるためにはどんな工夫をされましたか?

 

舩坂 一番大きかったのはTwitterです。今回のクラウドファンディングでお世話になった「CAMPFIRE」では、自分が支援したプロジェクトをSNSでシェアすることが任意で出来るのですが、本当に多くの支援者の方が、このプロジェクトを支援したことをTwitterでシェアしてくれたんです。昨年の4月以降は、コロナで大変な思いをしている事業者さんを助けようという雰囲気が日本中で生まれていましたよね。そういった流れもあったのだと思います。私たちは、そのツイートに引用リツイートでお礼をしました。人手も限られていたので、公式SNSはTwitterしかしていませんが、Twitterの拡散力は本当に大きかったです。最終的に2500件以上のリツイートがありました。

 

−− 2500リツイートの向こう側にいる人の数を考えると、ものすごい数に情報が届いたことになりますね。

 

舩坂 はい。支援者が増えるにつれて、「みんなで応援しよう」という気運がどんどん高まっていくのが分かりました。

 

−− リツイートされるために、できることはありますか?

 

舩坂 SNSが情報発信に欠かせない時代においてコピーは本当に重要ですね。ポイントは、伝えたいことが明確で、短く、キャッチーであること。「#おうちで飛騨牛」は、社員のアイデアから生まれました。また、支援者の方に届く返礼品に同梱する感謝状やステッカーにもこだわりました。

 

−− 返礼品が届いた後、つまりプロジェクト終了後の情報発信も必要ですか?

 

舩坂 とても重要です。今回のプロジェクトは、ご支援いただくことがゴールではありません。飛騨牛の美味しさを知ってもらい、飛騨牛のファンを増やすことがゴールです。ですから、返礼品が届いた後こそ、支援者の方が情報発信したくなるような仕掛けがとても重要です。制作物やお肉の写真や動画と一緒にいただいた「美味しい」の声が生産者さんや精肉店さんの力になって、未来につながっています。

 

返礼品と一緒に送られたステッカー

生産者や生肉業者からの感謝メッセージも返礼品と一緒に同梱

クラウドファンディングでTwitterを最大限活用する方法

⚫︎ 引用リツイートで、お礼をしっかりとする

⚫︎ リツイートしたくなる制作物を準備

⚫︎ プロジェクト終了後こそコミュニケーションが起こる仕掛けを

クラファンにおける動画活用

 

−− 動画活用についても教えてください。

 

橋本 飛騨地域全市村長4人にインタビューをし、プロジェクトにかける想いをメッセージ動画にして、プロジェクトページで紹介しました。

 

−− その動画の目的はどういったところにあったのですか?

 

橋本 プロジェクトの一体感や安心感を支援者の方に伝えることが第一の目的でした。クラウドファンディングのプロジェクト数は年々増えています。その中で、返礼品が届かないとか、プロジェクト未達成なのに返金がないとか、そういったトラブルもあると聞きます。支援者の方は、自分が支援するプロジェクトを実行する団体がどのような人たちなのか、確認しますよね。そういった意味では、飛騨地域全市村長が後援についていることは、プロジェクトを支援する際の安心感につながったと思います。

 

−− 確かにそうですね。同時に、みなさんの飛騨牛愛も伝わってきて、地域挙げての本気のプロジェクトだということも伝わりました

 

高山市長・下呂市長・飛騨市長・白川村長からのメッセージ

−− 他にはどのような動画活用をされましたか?

 

舩坂 飛騨肉牛生産協議会の会長と青年部長にお願いして、支援者向けの感謝メッセージを動画でお届けしました。支援者のメーリングリストがあるので、プロジェクトの途中経過と終了報告の2回、動画のURLを添付してお送りしました。

 

−− なぜ動画にしたのですか?

 

舩坂 感謝を伝えるのに、やはり顔が見えた方が伝わると思ったからです。想いを伝えるには、動画は適していると思います。

飛騨肉牛生産協議会 田中力会長からのメッセージ

−− クラウドファンディングを終えて、どのような効果や変化を感じていますか?

 

橋本 飛騨牛ファンの増加を実感しています。数値化はできていませんが、飛騨牛の知名度も向上しているはずです。今回、全国47都道府県すべてから支援をいただきました。JAひだネット販売の売上も前年比4倍になっています。また支援者から寄せられる喜びの声が、生産者さんや精肉店さんの力になっています。このプロジェクトがなければ、関係者がここまで一致団結することもなかったと思います。

 

舩坂 地元をはじめ、東海3県に飛騨牛ブランドを改めて周知できたことも大きかったです。支援者の内、30%は愛知県で20%が岐阜県です。飛騨牛はもちろん、今後、県内の物産品を東海地域に届けていく可能性が広がりました。

 

−− 今後についても教えてください。

 

橋本 先日、2度目のクラウドファンディング「帰ってきた#おうちで飛騨牛」プロジェクトも無事に達成することができました。たくさんのご支援、本当にありがとうございました。3度目はありません。今後は、それぞれが次につなげて欲しいと思っています。すでに新しい取り組みを始めている精肉店さんもいます。各事業者さんがそれぞれ頑張って、飛騨牛を守り育てることで、みんなで「飛騨牛を日本一」にしたいと思っています。

 

−− 最後に、クラウドファンディングで成功するためのアドバイスをお願いします。

 

橋本 クラウドファンディングは、対応一つで炎上しかねません。目標金額を達成しても、ブランドに傷がついては、元も子もありません。問合わせやクレームなどの対応を一つ一つ丁寧にすることを忘れないでください。

 

舩坂 私から言えることは「当事者が熱狂すること」が成功の条件ということです。当事者が本気かどうか支援者は見抜きます。そして、プロジェクト終了後を見据えた本質的な目標設定をし、長期的なビジョンを描くことだと思います。

 

 

取材社情報

JAひだ

 

株式会社ヒダカラ