「動画」が農業を変えていく! 人生を変えたYouTube【前編】

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人口2400人の小さな町に、6万人とつながっている農チューバーがいます。自動車整備士と農家の兼業で忙しい中、この5年間ほぼ毎日動画を更新。日誌代わりに始めたYouTubeチャンネル『Harada Farm』が今、若者から高齢者まで高く支持されています。「原田さんのような農家になりたい」という夢を持つ若者も生まれ、次世代の育成や支援など、その活動は多岐に。動画配信のきっかけから、現在の想い、そして制作におけるアドバイスなど、「原田農園」代表の原田賢志(はらだ・たかゆき)さんに聞きました。

プロフィール写真

原田賢志(はらだ・たかゆき)
原田農園代表。
広島県東広島市福富町生まれ。
6万人のチャンネル登録数を持つ農チューバー。平日は自動車整備会社勤務の兼業農家。近所に道の駅ができた頃に、両親の家庭農園を引き継ぐ形で始めた農業は全て独学。ドローンや最新技術・農機具を用いて生産性の高いカッコいい農業を目指し、YouTubeチャンネル『Harada Farm』を毎日更新。

動画活用のきっかけは「自分の記録用」

「それでは今日も、頑張っていきましょう!」

 

YouTubeチャンネル『Harada Farm』では、原田さんが右手の親指を立てた「いいねポーズ」とこのお決まりの台詞から始まります。

 

原田さん(以下、敬称略):農業を手伝ってくれている弟と交わす掛け声だったんです。弟から「動画でも言ったら?」ってアドバイスをもらって試しに言ってみたんです。そうしたら視聴者から「毎日元気をもらえます」「子どもが真似しています」といった声をいただくようになり、やめられなくなりました(笑)。

 

原田さんが動画を配信するようになったきっかけはなんでしょうか。

 

原田:畑面積を拡大した頃、植付けや売上を管理するために母から「日誌をつけたらどうか」と言われて。それは一理あるな、と。でも日々メモを取るのも大変だし、楽しくなさそうで続ける自信もなかった。何か良い方法を探していた時に、たまたまYouTubeを見て思ったんですよね、「動画で記録を残すのはアリかもしれない」と。

 

元々カメラやパソコンが趣味の原田さんは、これだったら続けられるんじゃないかと、5年前にYouTubeチャンネル『Harada Farm』を開設します。

 

原田:日誌をつける代わりの自分のための動画だったので、最初は「見てくれる人がいたらラッキー」くらいの軽い気持ちで始めました

 

しかし、しばらくすると視聴者から質問が届くようになります。

 

原田:ここはどうやっているんですか?」とか「こういう場合はどうしたらいいですか?」とか、農家だけでなく、家庭菜園をされている方たちから、具体的な質問がコメント欄に書き込まれるようになったんです。質問されたら、やっぱり答えたくなるじゃないですか(笑)。でも、すぐには答えられない質問も結構あったので、ネットで調べたことを自分でも実際にやってみて、わかったことを動画やコメント欄で回答する、そんなことを繰り返しているうちに登録チャンネル数や再生回数が徐々に増えていきました。

 

動画を見れば、質問をした人だけでなく、同じ疑問を持っている人も自分が知りたかったことを知ることができます。また、1分間の動画は180万文字に相当すると言われるほど動画の方が情報量が多い。ましてや農業においては、映像で確認できた方がはるかにわかりやすく理解も深まります。

 

原田:当時は、まだYouTubeに農業系のチャンネルはほとんどなかったので、農業や家庭菜園をしている人にとっては、動画のわかりやすさは画期的だったのかもしれませんね。

 

原田さんは、正確な情報を発信するために、自分のやり方が正しいかどうかを調べたり、わからないことは農家さんに問い合わせたりするなど、真摯に対応したといいます。

 

原田:何かを教えるっていうのは、責任を伴いますから。そこはしっかり調べて、正確な情報を伝えないといけないと思っています。

 

わかりやすく丁寧な解説が、『Harada Farm』の人気の理由の一つです。

 

原田:わからないことを調べる作業って手間と時間がかかって結構大変ですよね。それを僕が代わりにやって、動画を使ってよりわかりやすく伝えた。それが、多くの人が持つ共通の要望や課題に応えられたんだと思います。

 

自分のためにやっていた記録用の『Harada Farm』がいつしか視聴者のための『Harada Farm』に変わったといいます。

視聴者に必要とされる動画をつくるポイント

⚫︎ コメントや視聴者の反応を見て、求められていることを模索する

⚫︎ 視聴者の「困っていること」を解決する

⚫︎ 責任を持って正しい情報を発信する

176万回再生されている『ミニトマトの下葉を落とすタイミング』の動画

撮影の極意:段取りが8割!

動画をほぼ毎日更新している原田さんですが、自動車整備士、農家、YouTuberの3つの顔を持っています。撮影から編集までたった1人で全てをこなす原田さん。忙しい毎日の中、一体どのようなスケジュールで動画を撮影、編集、アップしているのでしょうか。

 

原田:日の出時間にもよりますが、今は朝4時に起きています。自動車整備業の出社が8時なので、5時からの約3時間を使って農作業という感じです。昼は5分で食事をして、アラームをセット。昼休みが終わるギリギリまで農業をして職場に戻り17時半まで勤務。そのまま農業をし、20時に帰宅します。それから子どもたちとお風呂に入り、ご飯を食べ、子どもたちを寝かしつけた後、21時くらいから動画の編集作業に入ります。撮影した動画の尺や内容にもよりますが、編集作業時間はだいたい1時間くらいですかね。寝ている間に動画をアップロード。朝起きてからサムネイルとタイトルをつけて動画をアップするようにしています。

 

目が回るようなスケジュールですが、原田さんは淡々と話します。

 

原田:撮影に関しては、段取りが8割です。農場に着いてから何を撮ろうとか、どこから撮ろうなんて考えていたらそれだけで時間が過ぎてしまいます。必要な機材、撮りたい映像や画角、定点カメラの位置、動画の構成や解説の内容まで、頭の中でしっかりイメージして準備するんです。農業も動画も私が好きでやっていることですから、本業と家族との時間を大切にした上で、という話です。そうなると、本当に時間がない中で、どれだけ効率的にやれるかが勝負です。ま、段取りを考えるのも楽しいんですけどね。

 

原田さんも慣れるまでは、撮影や編集作業に今よりも時間がかかっていたといいますが、大切なのは「とにかく楽しむこと」だと繰り返し話します。

撮影のポイント

⚫︎ 撮影前の段取りが全て。準備を万全に

⚫︎ 大切なのは楽しいこと。楽しいから続けられる

 

「カッコいい」動画にこだわる理由

『Harada Farm』が多くのファンから支持されているもう一つの特長が、プロ顔負けの映像の質の高さです。ドローン撮影による空撮映像は圧巻。野菜の水々しさは映像から伝わってきます。また、見る人のことを考えた画角や構成は、他にはない臨場感で視聴者を惹きつけます。

 

また、生産性の高い農業を目指し、様々な農業機械を扱っている原田さんは、農薬散布ドローンやソーラー自動潅水システムなど、日進月歩の農業機械の使用風景を丁寧にカッコよく紹介しています。まさに「見る農業」のパイオニアです。

※原田さんが使用している撮影機材やPC環境は『Harada Farm』の概要欄をご覧ください。

 

原田:元々趣味がカメラやパソコンなんです。だから、撮影も編集も全く苦じゃない。好きだから楽しいし、続けられます。最初はiPhoneで撮影していましたが、見てくれる人も増えてきて、こんな風に撮ったらもっと分かりやすいかな、とか。こうした方がカッコよく撮れるかな、と考えているうちに、どんどん欲が出てきて機材にもハマっていきました(笑)。

 

もう一つ、原田さんが映像にこだわる理由があります。

 

原田:農業って「汚い、辛い、しんどい」って思われがちですよね。でも、そうじゃない。スマート農業と呼ばれるようにこの分野の技術はものすごい速さで進歩しています。昔は全て手作業だったものが、今は自動運転のトラクターがあったり、ドローンで農薬を散布できたり、最新の便利な機械が沢山あって本当に面白い。農業はものすごくカッコいい職業なんです。僕はそれを若い人たちに伝えたい。だからこそ、僕が発信する動画は とにかくカッコよくしたいんです。

「動画」が担う次世代の育成

数年前から、原田さんの元には、農業を学びたいという子どもたちが研修にやってくるようになったといいます。浜崎くんもその1人です。

 

浜崎くんはYouTubeで『Harada Farm』を知り、「原田さんのような農家になりたい」という夢を持ちます。そして、中学3年生の時、実際に原田農園へ研修に訪れることに。その後 浜崎くんは、原田さんが乗っている青いトラクターが欲しいという目標を掲げ、祖父母がやっていた農業を本気で手伝うようになります。原田さんの動画を見て「自分も耕作放棄地を新たに借りて白ネギ農業をやりたい」と両親を説得し、なんと3年で550万円を自身で稼ぎ出し、原田さんと全く同じ青いトラクターを2021年4月に購入したというのです。

 

白ネギ栽培の場合、1反(990㎡)で100万円の売上が目安といいます。550万円を売上げるのが、どれだけ大変なことだったか。その想像すらつきません。ましてや浜崎くんは学校と農業の兼業です。浜崎くんの努力と原田さんの存在の大きさに言葉がありませんでした。

 

原田:そうやって若い子たちが農業に興味を持ってもらうことが何よりも嬉しいです。

 

と原田さんは笑います。そんな原田さんの元には、子どもの進路相談の電話までかかってくるとか。

 

原田:ある時、「息子が学校をやめてに農業だけをやりたいっていうんです。原田さん、なんとか言ってください」と親御さんから相談されたんです。それで僕がその子に野菜の種が入った袋の裏を見せて「この漢字読める?」って聞いたんです。彼は「読めない」と答えました。なので、「字が読めなかったら書いてあることが分からないよね。ある程度の学力がないと農業はできないんだよ。だからせめて高校までは卒業して、そこから頑張って農業をやろうよ」と話をしたんです。その後、「おかげさまで楽しく学校へ行くようになりました、本当に有難うございました」とお母さまからお手紙を頂きまして。嬉しかったのと同時に、こりゃあ自分も下手なことは出来ないなと 身が引き締まりましたね(笑)。

 

次世代の農業を担う第二、第三の浜崎くんが、今日も『Harada Farm』を見ているかもしれません。原田さんはさらにカッコ良い動画を求めて、技を磨く努力を惜しみません。

 

原田:知り合いのプロのカメラマンに、撮影の方法や編集などのアドバイスをもらっています。視聴者に飽きられないように、僕も進化しないといけませんから。

 

直接会えなくても、会ったことがない知らない人にでも、動画なら方法だけでなく想いも伝えられる。原田さんが動画に込めた強い責任感と使命感が、しっかりと視聴者に伝わっているからこそ、原田さんのファンになり、そこから様々なストーリーが展開されているのです。

 

原田さんの動画が起こした農業の変化や奇跡の物語は後半でご紹介します。

 

前編の最後に、これから動画活用を始めたいという事業者さんにメッセージをお願いします。

 

原田:きっかけはなんでも良いので、まずは行動してみましょう。スマホで撮影して、その動画を見てみる。それを誰かに見せたり、SNSにアップしたりして、必ず反響を確認してください。そして、さらに動いてください。動画は場所も時間も年齢も超えて、人とつながることができます。活用次第で、予想していなかった世界が見られると思います!

 

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取材者情報:

原田農園:

YouTubeチャンネル『Harada Farm』:

https://www.youtube.com/channel/UCb4JLwc4-LeuTagN2niIdKg