シティプロモーション戦略の転換点 自治体に欠かせなくなった動画活用 【佐賀市シティプロモーション室:後編】
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プロモーション先進自治体として市の魅力を発信し続ける佐賀市シティプロモーション室。現在進めている移住促進プロジェクトの移住プロモーション動画も話題を集め、成果をあげています。「佐賀市なんもな課」という自虐的なタイトルで、佐賀市の魅力を発信する佐賀市シティプロモーション室。プロジェクトを円滑に進める極意から、動画活用の本質まで、佐賀市シティプロモーション室長の江頭さんにお聞きしました。
市役所で「尖った企画」を実現するために
これまで佐賀市シティプロモーション室が手掛けたプロモーション動画は、自治体らしからぬ表現で「クスッ」と笑ってしまうような企画が多く、着眼点が他の自治体とは少し違います。
例えば、2015年の企画「WRSB」は、有明海の泥の中に住む珍魚「ワラスボ」を地球外生命体に仕立て上げ、まるでB級映画の予告編のような迫力とユーモアがあふれる動画を展開されています。再生回数は38万回以上。今でも、年に数回クイズ番組で「珍しいものクイズ」などに取り上げられることがあり、6年たった今でも市のPRに貢献しているといいます。
ユーモアが効いた個性的な企画に、当時も話題性は抜群だったとか。しかし、固いイメージがある市役所という組織の中で、これをやりきるのは簡単なことではないはず。シティプロモーション室設立当初は、市役所内や地元のステークホルダーの合意形成に苦労はなかったのでしょうか。
江頭室長(以下、敬称略):前任者から聞いた話では、確かに当時は「ワラスボなんて出したら、佐賀市のブランドに傷がつく」なんて意見もあったようです。でも、佐賀市の魅力をより多くの方に知ってもらうためには、まず「見てもらえる動画」である必要があります。他の自治体も情報発信に力を入れている中で、認知度が低い佐賀市の動画を選んでもらわなくてはいけない。そのためには、佐賀市の個性を打ち出した「他にはない動画」である必要があったんです。そして、動画を見てもらうだけでなく、そこから始まるコミュニケーションの重要性をしっかり伝えることで賛同してもらえたのだと思います。
シティプロモーション室は3人という少数精鋭で運用していますが、他の部署の事業PRや、複数の部署にまたがったプロジェクトのPRが仕事であるため、業務を円滑に進めるためにはかなり気を遣うそうです。
江頭:どのプロジェクトも、関係部署にはプロジェクトの最初から入ってもらい、プロジェクト全体の概要からスケジュールや詳細に至るまで、しっかり情報共有を行い目的と認識がズレないように一体となって進めることが重要です。些細な情報でもしっかり共有していればお互いに「聞いてなかった」ということにはなりませんから。
プロジェクトを円滑に進めるために
⚫︎ 関係者やステークホルダーに、企画の初期段階から目的や情報を共有する
⚫︎ 関係部署とは最初から全ての情報を共有し、一緒に進めていく
シティプロモーション戦略の大きな転換点
現在 展開中の移住促進プロジェクトのプロモーション動画「佐賀市 なんもな課」も、一見すると自虐的なタイトルで「自治体らしからぬ動画」として注目を集めています。
佐賀市の魅力を広めたくない架空の部署「佐賀市 なんもな課」のメンバーが、移住者の増加を食い止めるために奮闘する、ドタバタ劇のショートストーリー。毎回、彼らの奮闘もむなしく、移住希望者に佐賀市の魅力がより伝わってしまうというオチがつき、「移住の心配なんもなか!(移住の心配など何ひとつない)」というキーメッセージで締めくくる、佐賀市の魅力を様々なテーマで発信する動画コンテンツになっています。
江頭:県外の方に佐賀市の魅力を聞かれると、多くの市民が口を揃えたように「佐賀市には何もなかもんね(何にもないよ)」と答えるんです(笑) 40年の歴史を誇るアジア最大級のバルーンフェスタもありますし、温泉だって、美味しい食べ物だっていっぱいあるんですが、佐賀人の奥ゆかしく控え目な気質がそう言わせるんですかね(笑)。
その市民性を逆手に取ったユーモアあふれる企画が「佐賀市 なんもな課」のプロモーション動画。しかし、江頭さんは市民性だけで片付けてはいけない、シティプロモーション戦略の大きなヒントがそこにあると言います。
江頭:シティプロモーション室の仕事は、とにかく沢山の人に佐賀市のことを知って欲しいということだったりするので、以前は「市外の方へ向けた情報発信」をメインにやっていたんですが、この数年は「市民へ向けた情報発信」にも力を入れるようになりました。佐賀市の魅力や価値を、まず市民の方々によく知ってもらって、佐賀市民から外部へ発信して頂けるように、それを目指すことにしたんです。「何もなかもんね」と答えるのではなく、市民が佐賀市を自慢できるようになって欲しいですね。
シティプロモーションと聞くと、「外部への情報発信」というイメージがありますが、佐賀市の魅力と価値を高めていくためには、むしろ市民を大切にすることが欠かせない、まさに目からうろこのようなお話です。確かにシティプロモーションの成果を考えると、市民が佐賀市の魅力を伝えてくれるプロモーターになるのが最強の戦略なのかも知れません。
江頭:実は、何もないと自虐しがちな割に、佐賀市が好きな住民は非常に多いんです。昨年度の『佐賀市民意向調査』によると、愛着度は89.3%で、住み続けたい人は94.3%という結果が出ています。そんな地元を愛している市民の皆さんに、もっと佐賀市の魅力に気付いてもらって、それを発信して欲しい、そう思って仕事に取り組んでいます。
シティプロモーションで成果を上げるために
⚫︎ 外部への発信だけでなく、地域住民への発信が重要
⚫︎ 地域住民が、外部へ自慢したくなる情報発信を続けること
これからの自治体に動画活用は欠かせない
市役所のHPに掲載される情報のほとんどがコロナ関連の情報になっていた中で、大きな貢献をしてくれた動画コンテンツがあるといいます。
江頭:昨年、コロナの影響で外出自粛だった時期に、2017年に制作した『佐賀弁ラジオ体操』を公式フェイスブックと市の公式HPで改めて発信しました。外出ができなくて運動不足になっている市民の皆さんに、少しでもお役に立てたらという思いだったのですが、これが想像以上にすごい反響で!市民の皆さんだけでなく、コロナで帰省できない方々にも大変喜んでいただきまして、「佐賀弁ラジオ体操のCDが欲しい」というお問合わせも多かったです。
2017年3月に制作され、毎年夏休みシーズンに少しずつ視聴回数を伸ばしてきた「佐賀弁ラジオ体操」の動画は、このコロナ禍の中で大きな支持を集め、動画再生回数54万回という驚異の数字を記録しています。
どんなに良いものを作っても、それを発信しなくては意味がないと江頭さんは強調します。誰に届けたいのか、いつどこに届ければいいのかを常に意識しています。
江頭:動画は大切な資産ですから、作りっぱなしは絶対にNGです。発信して届けて、アクションを起こしてもらうことに広報の意味があります。届けるタイミングを見逃さないこと、そして いつそのタイミングが来てもいいように、常に備えておくことが私たちの仕事です。
シティプロモーション以外の用途でも、動画は自治体にとって欠かせないものになっていると江頭さん。
江頭:写真だと その場の状況や距離・大きさとかが伝わりづらかったりするんですが、動画ならそれもリアルに伝わりますし、テキストでは伝えきれない情報も動画だと1分足らずで表現できたりしますよね。それと、市長のメッセージなどは、動画の方が圧倒的に発信力も影響力も大きいです。自治体にとって、動画は必要不可欠になっているように思います。
最後に、江頭さんが動画制作をする上で大切にしていることを教えてください。
江頭:どの自治体も目指していることは一緒です。興味を持っていただいて選んでもらうためには単なるインフォメーションで終わるのではなく、『魅力×面白さ』が重要だと思います。何かを探したり、選んだりする際に、「面白そう」というのは非常に大きな動機になりますから。私たちが伝えきれていない佐賀市の魅力をどう表現するか、佐賀市民が気づいてない価値にどう気づかせるか、毎回必死で考えています。
佐賀市シティプロモーション室の最大の武器は、動画を制作している作り手の佐賀愛と熱量なのかもしれません。
シティプロモーション室の挑戦は続きます。
動画活用の注意事項
⚫︎ 動画は資産 作りっぱなしにしない
⚫︎ タイミングを逃さないように常に備える
⚫︎ 単なるインフォメーションで終わらない「面白さ」が重要
全国広報コンクール 映像部門で最高賞!先進自治体から学ぶ動画活用の極意
【佐賀市シティプロモーション室 前編】はこちらから
元エンタメ業界のプロである「よむどー」編集長 緒方による裏解説動画も公開中!
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佐賀市シティプロモーション室ウェブサイト:
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