連載Vol.4 映像制作のために必要な「整理」の技

映像で社員が育つ理由 活用の極意、教えます

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映像制作で社員の成長を促すという榎田竜路さんが考案した唯一無二の方法論を紹介している本連載。100秒程度の映像を制作する4過程「取材・整理・編集・伝達」を通して、社員に必要な3つの力(感じる力、考える力、行動する力)を鍛えることで、中小企業に不可欠な力である「稼ぐ力」を上げることが目的です。第1回目は、社員の成長に欠かせない3つの力〜感じる力、考える力、行動する力〜の重要性やそのメカニズムを学びました。第2回目は、感じる力を鍛える「取材技法」について、第3回目は「映像を制作するために必要な3つの言語」である音声言語、画像言語、文字言語のうち静止画に限った画像言語について紹介しました。第4回目となる今回は、4過程で「取材」の次にくる「整理」について紹介します。

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榎田竜路(えのきだ・りゅうじ)

合同会社アースボイスプロジェクト代表 

音楽家 メディアプロデューサー

 

2004年北京電影学院の客員教授に就任。日本の伝統文化の底にある「型」の概念を研究し、その「型」を映画教育に応用する。独自の手法「認知開発®」を体系化し、全国で講座を開催。現在までに1,500名余の人材を育て上げている。また、同手法を応用したメディア手法「序破急®モデル」を開発、これまでに2,000本以上の映像を制作・監修。企業や地域に「物語」を見出し、それを価値ある情報に編集・デザインし、グローバルに展開。中小企業の活性化に尽力している。

▽これまでの連載を読む▽

連載Vol.1 「感じる力」が社員成長のカギ はこちらから

連載Vol.2 コミュニケーション力と自己肯定感を上げる取材の技 はこちらから

連載Vol.3  「感じる力」を育てる「画像言語」の撮影技術 はこちらから

「整理」なくして「編集」はできない

こんにちは、アースボイスプロジェクトの榎田竜路です。

 

前回までに、ようやく「取材(インタビューと写真撮影)」が終わりました。今回は次のステップである「整理」に進みます。「整理」は取材で得た膨大な情報を4つのステップで順番に分けていきます。整理された情報を元に映像のテーマを決めるので、整理はとても重要な作業です。それにも関わらず、この「整理」を飛ばしていきなり「編集」をする人が非常に多いです。断言します。「整理」なくして「編集」は絶対にできません

 

そもそも、なぜ整理が必要かというところからもう一度説明しましょう。「100秒程度の映像」とはズバリ何かと言ったら、視聴者に「この企業(人)と関わりを持ったら、なんか良いことありそうだ」と、相手に良い未来を空想させる映像です。この空想誘導しやすい物語を準備することが「整理」の目的になり、この作業が「感じる力」を上げ、同時に「考える力」も成長させます。では、具体的にどうするのか。

 

最初の作業は取材の時に録音した音声の文字起こしです。自分のセリフも取材相手のセリフも全て文字起こししてください。もちろん文字起こしツールを活用しても結構です。大切なのは文字起こしした内容を、繰り返し読むことです。この文字起こししたデータは、言うなれば倉庫のようなもので、迷ったらここに戻ってきてください。

 

人間は過去と現在をつなげて未来を空想する生きもの

次にする作業は、文字起こしのデータの出来事から、過去と現在のコンテンツに仕分ける作業です。

 

まずは「現在」のコンテンツです。これは数値化できるスペックや実績など、説明できる価値を指します。下の図で左下の「Spec」にあたります。

 

 

次に「過去」のコンテンツです。ここは数値化はできないけど共感できる価値で、上図の中央上部にある「Story」にあたります。

 

この仕分け作業が終わったら、次は、過去の「Story」と現在の「Spec」をつなげて「物語」を作ります。この「物語」をここでは「ヒストリー」と呼びます。「ヒストリー」を作るためには、「過去に〇〇だったから、今の△△がある」という風に、過去の出来事と現在のスペックを上手につなげてください。この物語の根拠は、あなたの仮説で結構です。例えば、「今の結果は、過去の失敗と気づきの蓄積」とか「学生時代の恩師から学んだ、洞察力と判断力」とか、あなたが取材で得た直感をもとに、様々な「ヒストリー」を作ってください。同じエピソードを複数回使っても良いです。この「ヒストリー」が、図の右下にある「Potential(ポテンシャル)」を空想させるのです。

 

なぜ「ヒストリー」が必要かというと、人は過去と現在をつなげると、勝手に未来を空想する生き物だからです。つまり、映像を見た人が未来を空想するために必要なのが、「ヒストリー」というわけです。これは映画の技術と全く同じです。映画を観る時、あなたは劇中の得られた情報から先の展開を空想し、ハラハラドキドキしていると思います。この100秒の映像で用いられているのも同じ原理です。

 

この「Potential(ポテンシャル)」は、あなたが何かを語る必要はありません。むしろ「我が社のウリは」なんて言った時には視聴者は興醒めです。ほんの少しの匂わせも一切禁止です。繰り返しになりますが、相手が勝手にあなたの会社を「なんか良いな」と思ってもらえるような「ヒストリー」を、過去と現在のエピソードを上手につなげて、いくつも作ってください。

たくさんの「ヒストリー」一つ選ぶのは直感力

さて、何通りもの「ヒストリー」ができたと思います。ここから、この映像のメインとなるテーマを決めていきます。テーマを決めるために、視聴者に「良い未来を空想してもらう」ための「ヒストリー」を一つ選ぶのですが、この決め方がとても重要です。

 

どうしたら良いかというと、あなたが作り上げた何通りものヒストリーから、「これだ!!!」というヒストリーを直感で選ぶことです。大切なのは、失敗してもいいので、自分の選択を疑わないこと。また、周りの人も失敗を許容してください。もし、失敗しても、あなたの直感が反省し、それが成長につながります。しかし、「直感を疑うこと」は「感じる力」の成長も、「考える力」の成長も止めてしまいます。さらに、「考える力」は「感じる力」を超えては身につきません。「感じる力」の延長に「考える力」があります。ですから、「自分の直感を信じる」ことは、「感じる力」と「考える力」を養うために必要不可欠なのです。当たり前ですが、この「感じる力」はアウトソーシング(外注)できません。社員が「感じる力」を高めて成長する他に、企業が稼ぐ力を養う道はないと私は思っています。

 

榎田流 整理の4ステップ

ステップ1:文字起こし

ステップ2:現在と過去の仕分け作業

ステップ3:現在と過去をつなげて「ヒストリー」を作る

ステップ4:直感でヒストリーを1つ選択し、テーマを設定する

テーマは映像のDNA

「ヒストリー」を一つに決めたら、映像のテーマを決めます。「〇〇の△△の話し」といった形になるように考えてください。

 

一言で表現する中でも、相手が空想しやすい、興味・関心を引くように言葉を選ぶのがポイントです。テーマは映像のDNA のようなモノです。細胞であり、骨であり、肉でもあります。テーマを聞くだけで、「なんか、気になる」を誘導する必要があります。しかし、全てを語る必要はなく、「え?どういうこと?」くらいにしておくことがミソです。

 

例えば、あなたが私を取材して、整理をしたと仮定してテーマをあげてみましょう。

私は、音楽家であり、映像プロデューサーであり、教育者でもあります。過去のさまざまな出来事が、現在の職業につながっているので、たくさんのヒストリーが生まれたと思います。いくつか例を出してみましょう。

 

例1 「火事で全てを失って、覚醒した男の話」:

火事で自宅が全焼した「過去」と、それによって感覚が研ぎ澄まされ、身体感覚の指導者になった「現在」をつなげた「ヒストリー」

 

例2 「誤解が元で映画の超名門校の客員教授になった男の話」:

学生映画祭を主催したことがきっかけで、世界的に有名な映画の大学で、映像を教える客員教授になった「現在」をつなげた「ヒストリー」

 

とかいかがでしょうか。

「え?何それ?」「ん?どういうこと?」と興味を持ってもらえましたか?

 

どちらも本当に私の話です(笑)。

 

このテーマが設定できたら、いよいよ編集作業に入ります。

映像制作も佳境に入ってきました。最終回では「編集・伝達」の極意をご紹介します。最後までお付き合いください!

 

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連載Vol.1 「感じる力」が社員成長のカギ はこちらから

連載Vol.2 コミュニケーション力と自己肯定感を上げる取材の技 はこちらから

連載Vol.3  「感じる力」を育てる「画像言語」の撮影技術 はこちらから

 

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