連載Vol.2 コミュニケーション力と自己肯定感を上げる取材の技
映像で社員が育つ理由 活用の極意、教えます
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前回は、中小企業に不可欠な力である「稼ぐ力」を紐解く中で、コミュニケーション力を上げるために必要な3つの力(感じる力、考える力、行動する力)の重要性を学びました。このうち「感じる力」と「考える力」を同時に強化させる手段が、取材・整理・編集・伝達という4過程で100秒程度の映像を制作することであると紹介しました。連載2回目は、最初の過程である「取材」について榎田さんに詳しく教えてもらいます。
連載Vol.1 『「感じる力」が社員成長のカギ』はこちらから
「取材」では「いいところ」だけしか見つけない
こんにちは、アースボイスプロジェクトの榎田竜路です。
前回、4つの過程を踏む「100秒の映像制作」の手法が「感じる力」と「考える力」の両方を引き上げることをお伝えしました。その「感じる力」と「考える力」はコミュニケーション力アップに欠かせないこと。そして、ここで培われたコミュニケーション力こそ、企業の「稼ぐ力」の源だということをお話しました。
今回はより具体的な方法に入っていきます。映像制作の最初のステップ「取材」です。この「取材」の過程では、特に「感じる力」が鍛えられます。さらに、この取材技法によって、取材者の自己肯定感も、取材相手の自己肯定感も上がります。このとっておきの取材方法を紹介しましょう。ぜひ、社内で、社員同士を取材し合ってください。
さて、「取材」の具体的な方法に入る前に「取材・整理・編集・伝達」について簡単に説明します。
取材とは:インタビューによって客観的なデータを集めること
整理とは:集めたデータをもとに、主観を交えて仮説を立てること
編集とは:仮説を選択すること。無限にある選択肢の中から、立てた仮説のもと組み合わせ物語を作ること
伝達とは:あらかじめ決めておいた手段で伝達する。状況を変化させることが目的
この4つの過程を、行ったり来たりしながら映像を制作します。何度も言いますが、「感覚」を使いながら、ということを忘れないでください。
先の通り、取材の目的はインタビューによって客観的なデータを集めることです。その際、NGなことがあります。それは、「課題点や改善点」を見つけようとすることです。これは、多くの人に共通する思考の癖でもあります。普段から人の欠点ばかり目に入るという方は特に注意が必要です。この取材では、欠点、課題点、改善点は一切無視してください。取材相手の「いいところだけ」を見つけることが、この過程における肝です。
「取材」で自己肯定感が上がるワケ
「いいところだけ」を見つけるには理由があります。
前回紹介した人間が持っている2つの判断システムを思い出してください。人間は、感情・感覚といった非言語の判断(System1)と、論理的な言語による判断(System2)、この2つのシステムで構成されていて、「感じる力」は非言語の判断(System1)に属します。
そして実は、非言語の判断は「主語」が認識できないという特徴があります。つまり、相手に対し「いいね〜」という感覚が生まれると、それが自分自身に「いいね〜」と感じていると脳が勘違いしてくれるのです。良い言葉を発したり、良い感情を覚えたりすると、勝手に互いの良い感覚を育ててくれる、そんな構造になっています。
逆も同じです。例えば、誰かに「馬鹿野郎!」と言ったとします。決して自分に言ったわけではないのに、脳は主語が識別できないので、自分が「馬鹿野郎」という言葉を言われたと勘違いします。人が酷い言葉を口にした後、自己嫌悪に陥るのはこの原理です。悪い言葉、悪い感情は、相手に対しても、自分に対しても肯定感を下げてしまいます。
「人を呪わば穴二つ」ということわざがありますよね。これは「他人を陥れようとしたり、その人の身に不幸が訪れるように願ったりするなど、他人に害を与えれば自分にも同じ報いが訪れる」という意味ですが、本当にその通りなんです。
もう一つ このメカニズムを理解するのに最適な事例があります。
あのゴルフ界のレジェンドであるタイガーウッズ選手は、勝負がかかった相手のパターの時に、相手に対し、本気で「入りますように」と願うそうです。相手がこのパターを入れたら自分が負けるという大事な場面で、です。タイガーウッズ選手は、相手に「入るな〜、入るな〜」と念じれば念じるほど、自分のパフォーマンスが落ちることを分かっているんですね。これはスポーツ科学では当たり前のことです。
ここまで言えば、お分かりいただけましたよね?
人の「いいところだけ」を本気で見つける取材は、相手と自分という相互の肯定感をも上げることができる素晴らしい手段です。自己肯定“感”は、その名の通り「感覚」で「理屈」じゃありません。「いいところだけ」を見つける取材は、「感じる力」を育てながら、社員の自己肯定感の質も上げ、稼ぐ力の向上に繋がるのです。
4つの過程を踏む「100秒の映像制作」の手法は、正式名称「認知開発®️手法」です。「物事の間に新しい関係性を見出して価値化する」というのが、認知開発®️手法の目的になります。
この認知開発®️手法には「欠点は長所に支えられていて、その逆もまた真」という事実があります。どういうことかというと、「繊細」と「神経質」は同じベクトル(この場合は細やかなことに気づく能力)の反対に位置する性質です。「大胆不敵」と「無謀」、「優柔不断」と「臨機応変」、「意志が弱い」と「融通が効く」といったように、どんな「欠点」も「長所」と対となって存在しているということに思いを馳せてください。
出現している現象だけ見て、それを排除すると「長所」まで消してしまうことになる。これは、現在の効率優先の経営手法の中にある致命的な認知習慣だと思います。今、現れている課題や問題に気づいたら、次に、それらを支えている「長所」について感覚を働かせる能力が必要です。その能力を身につけるためにも、映像言語を用いた映像制作が効果をもたらすのです。つまり、欠点を使う機会をなるべく減らし、長所を生かす時間を増やすという姿勢が必要なのです。この姿勢を養うためにも、まずは「いいところ」に目を向ける訓練を積んでいかねばなりません。
取材力を上げる究極の質問
とはいえ、相手の「いいところ」だけを見つける作業は甘くありません。この「いいところ」というのは、取材相手すら気がついていない、取材相手を輝かせる何か、である必要があります。この取材力を上げるためには稽古を重ねるしかありません。頑張りましょう!
では、取材の具体的な技についてお話ししていきます。
その人の「いいところ」を探すということは、その人のキャラクターを調べるということです。このキャラクターこそ「感じ方」×「考え方」×「行動」で成り立っています。
以前の取材記事でも触れましたが、まずは「パッション」、「ミッション」、「ビジョン」の3つを丁寧に聞くことです。それぞれを言い換えると、パッションは「志」、ミッションは「志に基づいた行動」、ビジョンは「世界観」です。さらに、「センス=美意識」、「スキーム=立場」、「スキル=やっていること」を聞いてください。取材対象者の「現在」がかなり明確になるはずです。
さらに、「いいところ」を見つけるための究極の質問があります。それは、「生い立ち」、「成り立ち」、「関わり」の3つを聞くことです。
「生い立ち」はどんな時代、どんな場所、どんな家族構成、親兄弟について。また、小さい頃はどんな風に遊んでいたのか、何が好きだったのか、親、兄弟との一番の思い出などを聞くんです。なぜ小さい時の話を聞くかというと、聞いている人の心の中に、その人の小さい姿が浮かぶことで、共感が生まれるからです。目の前にいる人がどんなにゴツくても、お年を召していても「あぁ、この人にもそんな時があったんだな」と感じることができるのです。
「成り立ち」は、取材対象者の持っている優れた能力がどのようにして身についたのかという過程を聞きます。最後の「関わり」は、その人に影響を与えた人間関係のヒストリーを聞きます。
つまり、「生い立ち」、「成り立ち」、「関わり」はその人のヒストリーです。それぞれ関係し合っているので、いろんな角度から聞いていきましょう。私が取材をする時、ほとんど世間話で、仕事の話題は非常に少ないです。この世間話こそが、たくさんの物語が生まれる究極の取材手法です。
取材をしていると、時には、非常に辛い経験を話す人もいると思います。その時は前向きに捉えることがポイントです。例えば、「その辛い経験があったから、社長は忍耐力があるんですね」とか「辛い経験から痛みを経験したから、いつも親身に悩みを聞いてくださるんですね」とか。過去の体験を現在の能力に変換してみましょう。
ただ、嘘は絶対につかないこと。嘘くさい芝居は見透かされ、決して良い取材にはつながりません。これを上達させるには、やっぱり稽古しかありません。
ぜひ、社内でお互いを取材し合ってください。初めは当然、色々聞き漏らしがあるので、何度も取材する羽目になります。その度に「申し訳ない」と恐縮する人が多いですが、取材される側は、結構嬉しいものです。自分の話を真剣に聞いてくれる人に、嫌な顔をする人はいないはずです!
この取材を重ねることで、社員がお互いのことを「お互いをよく知る」状態を作ることができます。中小企業という限定された組織では、「お互いをよく知る」ということが本当に大事です。たとえ苦手な相手でも、怖い上司でも、その人の背景や信条を知れば、共感が生まれ、社内コミュニケーションも劇的に改善します。この取材は、個人のコミュニケーション能力や自己肯定感を上げるだけでなく、社全体のコミュニケーション能力を上げることにつながります。
次回は、取材の過程に含まれる「画像」の撮影方法について解説します。
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